怪物の花嫁 米 1955年 68分 |
史上最低の映画『プラン9・フロム・アウタースペース』の前に製作された、これまた最低な映画である。ベラ・ルゴシはまだ生きていた。 「『怪物の花嫁』の舞台裏は全く狂気の沙汰だった。いくらか金が集まると、それでフィルムを何巻か買い、ルゴシにギャラを払ってモルヒネを買えるようにしてやり、その上で数日だけ撮影する。すると金がなくなる。撮影を中断して金集めに飛び回る。すべてがこんな調子だった。だから映画が完成する頃には誰にどれだけの金を払わなければならないのか、まるで判らなくなっていた」(ロバート・クレイマー。ベラ・ルゴシの伝記作家) この頃のベラ・ルゴシは、モルヒネ中毒の上に、長年連れ添った妻には逃げられ「我が生涯最悪の時」にあった。或る晩、ルゴシに呼び出されたウッドは拳銃を手にする彼を目撃した。 「晩年のルゴシを助けようとする者は誰もいなかった。エド・ウッド以外にはね。本当に彼だけだったんだ」(同上) |
そんなトンデモない経緯で完成された映画、『怪物の花嫁』は、こんなにトンデモない物語である。 放射能により超人を作り出す研究をしているヴォーノフ博士(ルゴシ)は、気狂い博士のレッテルを貼られて祖国から追放されてしまった。復讐を誓った博士は、ロボという名の低能の助手(トー・ジョンソン)と共に何故かタコを巨大化させたり、近所の人を誘拐しては改造しようとして殺してしまったりと、いろいろと無茶なことをしでかしていた。 「故郷?。故郷か.....私に故郷などない。追い回され、蔑まれ、まるで獣のように生きて来た。だが今に見ておれ。私は必ずや実験を成功させる。私の作り出す超人たちが世界を征服するのだ」。 あのネッシーの正体も、博士が巨大化させたタコだという。これには驚いてしまったが、それはともかく「大ダコ出現!」の情報に女性記者が取材を始め、そしてすぐさま囚われの身となる。 「あんなヘタな役者は初めてだったよ。同じシーンを17回も撮り直したんだぜ。あいつはどうしても台詞が覚えられなかったんだ」(エド・ウッド) ウッドがヘタと云うからには、それはもう本当に凄まじい大根だったことを意味する。しかし、映画自体がダメダメなので、マッコイの演技の酷さはさほど気にならない。 |
ところで、ルゴシはというと、その健康は眼に見えて悪くなっていた。ハードな撮影がそれに拍車をかけたことは云うまでもない。撮影はしばしば中断され、ルゴシは陰に隠れてモルヒネを一発、元気を取り戻して撮影再開。こんな無茶が繰り返された。 一代のドラキュラ俳優ベラ・ルゴシは1956年8月16日(『怪物の花嫁』の公開から3週間後)に心臓発作に襲われ世を去った。椅子に腰かけた状態で発見され、膝にはウッドの脚本『最後の幕』が置かれていた。 |
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