マリー・プレヴォー MARIE PREVOST(1898-1937)
《主な出演作》 *男嫌ひ女嫌ひ(1921) *可愛い悪魔(1922) *女は曲者(1923) *3人の女性(1924) *結婚哲学(1924) *断髪恥かし(1925) *当世女大学(1925) *奥様お耳拝借(1926) *特制鋼鉄人形(1926) *美人売約濟(1927) *桃色曲芸団(1928) *暴力団(1928) *破戒(1929) *暴露戦術(1930)
ミュージカル映画の傑作『雨に唄えば』は、こんな物語である。 ジーン・ケリー扮する映画俳優、このたび初めてトーキーに出演することになる。相手役のリナは思い上がりの馬鹿女。今日もスタジオでぶいぶい云わせて、皆から煙たがられている。おまけに下品なキーキー声で、監督は「このまま上映するのはマズかろう」と美声の代役に吹き替えさせる。 代役嬢のデビー・レイノルズはジーン・ケリーが恋する人で、彼女を思って雨に唄う。雨に唱えば当然濡れる。それでもズブ濡れになって唄う。ビチャビチャになって唄う。映画でなければ発狂しているのではないかと疑われても已むを得ないほどに唄う。それほどに熱狂的な恋だから、なんとかして彼女を世に出したい。ところが、彼女はしがないコーラスガール。他人の吹き替えに甘んじている。 そんな折り、件の映画の試写が行われる。観客たちは初めて聴くリナの美声に酔い痴れる。幕が下りて舞台挨拶。リナはよせばいいのにしゃしゃり出て、下品なキーキー声で「あたいの映画みてくれてアリガトね」。ああ?。なんだなんだ?。リナに物を投げる観客たち。これはチャンスとジーン・ケリーはデビー・レイノルズを引っ張り出して「実はあの声の主はこの方なのです」。新たなスタア誕生に拍手喝采。めでたしめでたし。 たしかに、この映画は一見ハッピーエンドである。しかし、リナにとっては地獄である。彼女はこの後、スタアの地位から転がり落ちて、酒に溺れるか、自殺するかのどちらかなのだから。
トーキーのために転がり落ちたスタアは山ほどいる。彼らの多くは悪声か、訛りが酷かった。 悪声でないにしても、イメージとかけ離れていたために転がり落ちた者もいる。例えば、バスター・キートンは渋いバリトン・ヴォイスだったが、シャイなイメージとはそぐわなかった。 マック・セネット率いる「ベイジング・ビューティーズ」出身のコメディエンヌ、マリー・プレヴォーもその一人だ。トーキー化に伴い仕事が激減、役も助演ばかりとなる。彼女は慰めを酒に求めた。アルコールとドラッグの日々が7年も続き、1937年1月23日、彼女はロサンゼルスの安アパートで、半ば喰われた状態で発見された。愛犬のダックスフントが、餌をくれない御主人様をドッグフード代わりにして生き存えていたのである。 英国のミュージシャン、ニック・ロウに『マリー・プレヴォー』という曲がある。こんな歌詞である。 She was a winner that became a doggie's dinner She never meant that much to me Oh, poor Marie
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