キートン西部成金
GO WEST
米 1925年 69分
監督 バスター・キートン
出演 バスター・キートン
キャサリン・メイヤーズ
ハワード・トルースデール
ブラウン・アイズ(雌牛)
ジョー・キートン
地味ながらも魅力的な作品。本作がどうして今日埋もれてしまっているのか不思議でならない。キートンと雌牛の愛を描いた傑作である。
何をやってもダメなキートン、貨物列車無賃乗車の旅。西部の荒野で転がり落ちて、カウボーイ見習いとなる。案の定、失敗の連続だが、雌牛の「ブラウン・アイズ」だけには何故か好かれる。彼女もまた牛仲間から蔑まれていたのだ。キートンは生まれて初めての友人と寝食を共にする。
そんな或る日、牧場主は5000頭を出荷する。愛しいあのコも売られてしまう。そんなことされてたまるか!。彼女を救うためにキートンは、屠殺場行きの家畜車両に乗り込むのだった。
ドナドナド〜ナ〜ド〜ナ〜、雌牛とキートンを乗せて列車は揺れる。
たしかに、前半は笑いが少ない。だだっ広い荒野でキートンが途方に暮れている印象である。しかし、後半で一気に炸裂。出荷先のロサンゼルスで5000頭の牛が逃げ出すのだ。ブティックが、床屋が、はたまたデパートが牛の大群で溢れかえる。都会は大パニックである。その後の『鳥』や『ウイラード』をはじめとする「動物パニック映画」の先駆けと云えよう。
これを赤い「悪魔」の衣装を着て先導するキートン(どうして「悪魔」かというと、赤い衣装が他に見つからなかったから)。追い掛ける牛の大群。走るキートン。走る大群。ロス市内を尻尾と角をはやした全身タイツのキートンと牛の大群が暴走する様はまさに悪夢の如き。凄まじい光景である。
どうにか牛の大群を屠殺場に送り届けたキートンは牧場主に感謝される。
「欲しいものは何でも云ってくれ」
「それでは、彼女をください」
牧場主は自分の娘のことだと思って躊躇する。ところが、キートンが連れて来たのは「ブラウン・アイズ」だ。大笑いする牧場主。やがて娘も彼のものになることを暗示して終幕となる。如何にもキートンらしい「ハッピーエンド」である。
本作はチャップリン映画のペーソスを取り入れたものだとの指摘もある。たしかに、それはあるだろう。前作『セブン・チャンス』でロイドを意識したように。しかし、キートンが恋するのは盲目の少女ではなく雌牛なのだ。このあたりの皮肉な態度がチャップリン映画とは一線を画するキートン映画の魅力なのである。
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