拳闘屋キートン(キートンのラスト・ラウンド)
BATTLING BUTLE
米 1925年 69分
監督 バスター・キートン
出演 バスター・キートン
サリー・オニール
スニッツ・エドワーズ
フランシス・マクドナルド
『セブン・チャンス』と同様に、ジョー・スケンクに原作を買い与えられた作品。ロイド映画のような物語は独創性に欠けるが、『海底王キートン』と並ぶ興行成功を修めた。
アルフレッド・バトラーは大金持ちの馬鹿息子だ。一人では着替えすら出来やしない。何をするにも執事の世話になっている。
この執事に扮するのが『セブン・チャンス』の弁護士、スニッツ・エドワーズ。前回同様にイイ味を出している。名傍役である。
息子のへなちょこぶりに業を煮やした父親は「キャンプで鍛えろ」と命ずるが、執事がお供するので家にいるのと変わりゃしない。大きなテントでベッドで眠り、優雅にディナーにパクついていやがる。
そんな或る日、森の中で一人の娘と出会う。
「あのコと結婚しようと思う。宜しく取り計らってくれ」
求婚も執事まかせの馬鹿息子だ。ところが、娘の親父は、
「あんなへなちょこに娘はやれん!」
そこで執事は嘘をつく。折しも馬鹿息子と同姓同名のボクサーが売り出し中だったのだ。
「お坊ちゃまはこのたびチャンピョンに挑むバトリング・バトラーざんすよ。へなちょこではございません」
おお、あいつがあの拳闘家だったのか。求婚は無事に受け入れられるが、この嘘のために馬鹿息子はリングに立つハメになるのであった。
原作の舞台劇では、馬鹿息子は結局、対戦することなくハッピーエンドを迎える。しかし、これでは70分は持たない。そこでキートンは楽屋で二人のバトラーを対戦させることにする。たったいま挑戦者を倒したばかりのバトリング・バトラーが、馬鹿息子を罵倒して一方的に殴りつける。当初はやられっぱなしの馬鹿息子だったが、恋人の顔を見た瞬間、闘争本能に火がつく。それまでのへなちょこが一転、狂暴な拳闘家に変貌するのだ。
キートンはこれまで感情を表に出さなかった。笑いもせず、泣きもしない。ところが、このたびは初めて怒ったのだ。怒りの表情を露にして猛然とチャンピョンに立ち向かうキートン。静かな男はキレると怖い。チャンピョンを床に叩きのめしても、尚も殴り掛かる。トレーナーや執事が止めに入らなければ殴り殺してしまうところだった。
『拳闘屋キートン』はキートン作品としてはやや劣る。しかし、ラストの怒りの闘魂は必見である。キートンがキレるその瞬間の演技は素晴らしいの一語に尽きる。
|