ユーゴスラビア中央(現スロベニア)の小さな村ドレニャ・ヴァスでは1977年から79年にかけて若い娘の失踪事件が相次いでいた。
1977年10月17日 ヴィダ・メナス
1978年 5月 4日 リュバ・スマロヴァス
8月21日 シプカ・ポスタルニー
1979年 2月16日 リラ・ブラスティスラヴ
12月 4日 ミラ・コセッキ
懸命な捜索にも拘らず、行方は杳として知れなかった。恐怖に襲われた村では吸血鬼の仕業と噂される始末である。
最後の失踪事件の後、クラウス・ホークバウエルというドイツ人旅行者がドレニャ・ヴァスへと向かう街道で、何者かに殴られて金品を奪われたと警察に届け出た。彼が語った犯人の風体から、村はずれの農場に住むメトッド・トリナス(32)が容疑者として浮上した。
刑事たちがトリナスの農場を訪ねた時、彼は妙にそわそわしていた。オーブンに近づくたびにあたふたしている。さては盗んだ金はこの中か? 刑事の1人がオーブンを開けようとすると、トリナスは割って入って「ドイツ人を襲ったのは私です」。そして、素直に金を差し出した。
しかし、オーブンが怪しいことには変わりない。開けてみて驚いた。中には炭化した人骨が入っていたのである。病理学者によれば16歳から24歳までの複数の女性のものであるという。うちの2体が歯科医のカルテからリュバ・スマロヴァスとリラ・ブラスティスラヴであることが、また、1体は鎖骨の骨折痕からミラ・コセッキであることが判明した。
つまり、この男こそ吸血鬼の正体だったのである。
トリナスは渋々ながらも5人の娘を強姦し、拷問した末に絞殺、遺体をオーブンで焼却したことを認めた。強姦でしか満足が得られないサディストだったようだ。
1980年12月10日、5件の殺人で起訴されたトリナスは、4日後には処刑された。早っ。
(2009年4月6日/岸田裁月) |