ダニエル・ラコヴィッツ
雄鶏を抱えたラコヴィッツとホームレスたち
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テキサス生まれの風来坊、ダニエル・ラコヴィッツ(29)はニューヨークのイースト・ヴィレッジではちょっとは知られた顔だった。長髪に髭面で、まるで一昔前のヒッピーのよう。いつも雄鶏を肩に乗せて、トンプキンス・スクエア・パークでマリファナを密売して暮らしていた。その実質はホームレスだが、彼には一応、住み処があった。トップレスダンサーのモニカ・ベアル(26)のアパートに転がり込み、同棲していたのである。
ところが、1989年8月19日を境にモニカの姿が見えなくなった。勤め先の『ビリーズ・トップレス』にも現れないし、通っていたダンス学校にも現れない。やがてトンプキンス・スクエア・パークにたむろする連中の間で、このような噂が囁かれ始めた。
「どうやらラコヴィッツの野郎が殺しちまったようだ」
「遺体はバラバラにして食べたとか云ってたぜ」
「脳味噌で作ったスープは絶品だったそうだ」
「俺、奴さんがそのスープをホームレスに振る舞っているのを見たぜ」
この噂はやがてニューヨーク市警の耳に入る。早速、ラコヴィッツを尋問したところ、彼はあっさりと犯行を自供した。但し、殺してはいないし、食べてもいない。あくまでも事故で死なせてしまい、遺体を処分するためにバラバラにして茹でたのだと主張した。
「どうして茹でたんだ?」
「肉を削ぎ落して骨だけにするためです」
「その骨はどうした?」
「ほとんどは棄てましたが、気に入ったものは取ってあります」
それはモニカの頭蓋骨だった。
かくしてラコヴィッツは殺人容疑で裁かれたわけだが、陪審員は精神異常と判断し、無罪を評決した。これに喜び勇んだラコヴィッツは、彼らに向かってこのように語りかけた。
「ありがとう。いつか一緒にマリファナをやりましょう」
やるか、バカ。
ラコヴィッツがモニカ・ベアルを食べたのか、その真偽は判らない。判らないが、こんなバカならば食べてしまってもおかしくない。そんな一件だった。
なお、ラコヴィッツは今もなお精神医療施設に収容されている。
(2010年12月24日/岸田裁月) |