ウィリアム・ヤングマンは失業中だった。そんなプー太郎がメアリー・ストリーターに求婚したのは、ハナから保険金が目当てだったと思われる。すぐさま100ポンドの生命保険を掛けると、ウォルワースにある自宅に招いた。
1860年のとある日、早朝に悲鳴を聞いて駆けつけた隣人は、返り血を浴びて血みどろのヤングマンに出くわした。まわりには新妻と母親、加えて2人の弟が倒れている。一家みな殺しである。
しょっぴかれたヤングマンは取調べで「おかんが狂った。おかんが狂った」を繰り返した。母親が突然に暴れ出し、包丁で嫁を刺し殺した。それを止めに入った弟たちも殺されて、自分がようやく包丁を取り上げて母親の暴走を制止したというのだ。にわかには信じられない話だ。
やがて彼が嫁に生命保険をかけていたことが発覚した。おそらく動機はそれだ。嫁を殺したところを家族に見られて、みな殺しにするハメになったのだ。
ヤングマンは「おかんが狂った。おかんが狂った」を繰り返し続けたが、それは誰にも聞き入れられずに絞首刑に処された。手元の少ない資料だけでは判然としないが、失業中の男が新妻に生命保険をかけるというのはやはり普通ではない。彼の犯行と見てよいのだろう。
しかし、僅か100ポンドのために家族をみな殺しにするハメになった男の心境とはいったいどのようなものだったのだろうか? 想像したくもないが。
|