スタークウェザーとキャリル・フュゲート
惨劇の舞台となったキャリルの家
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俺があの娘と会った時、彼女は庭でバトンを回していた。
俺と彼女はドライブに出かけ、10人もの罪もない人を殺した。
ネブラスカのリンカーンからワイオミングの不毛地帯まで、
俺たちの行く手にはだかる者はみんな殺した。
後悔なんてしていない。
少なくともほんのしばらくの間、楽しい時を過ごしたんだから。
奴らは俺は生きるに値しないと云った。
俺は地獄に落ちるとも云った。
奴らは俺が何故こんなことをしたのか知りたがった。
だけど、この世の中には理由のないことだってあるんだよ。
ブルース・スプリングスティーン『ネブラスカ』
チャールズ・スタークウェザーを題材にしたブルース・スプリングスティーンの『ネブラスカ』は、明らかにテレンス・マリック監督の映画『地獄の逃避行』をモチーフにしている。バトントワリングの練習をしていたキャリル(シシー・スペイセク)にゴミ収集をしていたチャールズ(マーティン・シーン)が声をかけたのはこの映画においてだったからだ。実際の2人の出会いがどのようなものであったかは判っていない。
チャールズ・スタークウェザーは8日間に10人もの人を殺めた。しかし、私はこのジェームス・ディーン気取りの無法者にはあまり興味がない。私の関心はむしろ同乗者のキャリル・フュゲートにこそある。彼女は共犯者だったのか? それとも人質に過ぎなかったのか? その答えを探すことが本稿の目的である。
時は1958年1月、この不可解な事件はネブラスカの州都リンカーンで火蓋を切った。ここ数日に渡ってバートレット夫妻を見た者はいなかった。ドアには「全員流感。立ち去るべし。ミス・バートレット」の貼紙。親類が訪ねると長女のキャリル(14)が顔を出し、
「みんな流感なの。誰も家には入れてはいけないとお医者さんに云われたの」
ところが、2日後に訪れると家は蛻けの殻。納屋からは3つの遺体が発見された。
マリオン・バートレット(57)。キャリルの義父。22口径のライフルで撃たれていた。
ヴェルダ・バートレット(36)。キャリルの実母。キャリルの実父とは4年前に離婚している。やはりライフルで撃たれていた。
ベティ・バートレット(2)。マリオンとヴェルダの娘。ナイフで刺された上、鈍器で殴られてとどめを刺されていた。
実父の姓を名乗っていたキャリル・フュゲートの姿は見当たらなかった。
警察はキャリルのボーイフレンドであるチャールズ・スタークウェザー(19)が怪しいと睨んだ。ジェイムス・ディーンとライフルに魅せられた、この辺りのチンピラだ。両親は7人の子を無難に育て上げたが、末っ子だけが横道に逸れた。車を盗んで乗り回しては、何度も警察のお世話になっていた。
チャールズは直ちに指名手配された。まもなくキャリルがチャールズの車に乗っていたとの目撃情報が入る。キャリルは誘拐されたのだろうか? それとも共犯者なのだろうか?
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