ウィリアム・ハイレンズ
ハイレンズが壁に残したメッセージ
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元FBI特別捜査官のロバート・K・レスラーは著書『FBI心理分析官』の中でウィリアム・ハイレンズについてこのように述べている。
《残忍な殺人鬼がシカゴを徘徊しており、私はいたく興味をそそられた。1945年のことで、私は9歳だった。その年の夏に、既婚の中年婦人がアパートで殺されるという事件が起こり、それについての記事を新聞で読んでいた》
1945年6月5日、未亡人のジョセフィン・ロス(43)が殺害された。頭を殴打され、首から喉にかけて何度も刺されていた。ベッドの上は血の海だが、遺体は綺麗だ。どうやら犯人は遺体を浴室まで運んで洗ったらしい。そして、刺し傷に粘着テープを貼り、首に赤いスカートとストッキングを巻きつけて、全裸のまま放置した。性犯罪に思われたが、強姦の痕跡はなかった。死亡時刻は午前10時30分と推定された。
室内を調べた結果、現金や貴金属がなくなっていることが判明した。警察は強盗の線でも捜査を進めた。しかし、単なる物盗りではないことは遺体の異常な状況から明らかだ。指紋は検出されなかった。
《それは単一の事件のように思われたが、12月に入って、海軍の元婦人部隊員がアパートで殺されるという事件が起きた。犯人は被害者の口紅を使って「頼むからまた誰か殺さないうちに私をつかまえてくれ。自分をおさえられないんだ」と壁に書いていた。現場に残された証拠から、この二つの殺人は関連している可能性があると警察は考えた。だがその証拠はあまりに凄惨で、新聞には載せられないということだった。それがどんなものか、私には見当もつかなかった》
同年12月10日、フランシス・ブラウン(30)が殺害された。遺体は浴室で跪き、浴槽にもたれ掛かるような格好で倒れていた。浴槽内の水は血に染まっていた。全裸で、首にはパジャマの上着が巻きつけられており、ほどくと左耳の下から反対側に突き抜けるほどの深い刺し傷があった。頭と腕には銃創もあった。
半年前のジョゼフィン・ロスの事件とそっくりだ。いずれも遺体が洗い流されており、首が刺されて衣類が巻きつけられている。全裸であるにもかかわらず、強姦はされていない。明らかに同一犯の犯行である。
だが、1つだけ大きく異なる点があった。このたびは壁にメッセージが残されていたのだ。
For heavens
sake catch me
before I kill more
I cannot control myself
これが口紅で書かれていたことから、犯人は「リップスティック・キラー」と呼ばれるようになった。
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