なんとなく殺して、なんとなく食べた。そんな印象を受ける奇異な事件である。
1998年4月某日、イングランド北東部の小さな町ダーリントンで、24歳のプー太郎、デヴィッド・ハーカーが夕食に舌鼓を打っていた。彼が食べていたのは、愛人関係にあった34歳のジュリー・パターソンだった。彼はそのことを友人たちに自慢した。どうせいつもの虚言だろうと本気にする者はいなかったが、その噂はやがて警察の耳に入った。そして、行方不明になっていたジュリー・パターソン殺しの容疑でハーカーの家を捜索すると、中庭で人間の胴体が入ったゴミ袋が見つかった。乳房は二つとも切り落とされていた。
経緯を訊かれてハーカーは、マンネリな性生活に刺激を求めて、首を絞めてみたら意外と良かったので、ついつい絞め過ぎて殺してしまったと告白した。
では、どうして食べたのか?
「死体をゴミ袋に入れるためにはバラバラにしなきゃならなかった。ナイフとノコギリでバラしたんだけど、肉がきれいなんだな。特に太腿がね。それでいっちょ食べてみようと思った。他にパスタとチーズしかなかったんで、肉をバター焼きにして添えたんだ。皮はちゃんと剥がしたよ」
理由になってねえ。
結局見つかったのは胴体のみで、他の部分の行方は知れない。やはり君の胃袋に収まったのかと訊ねると、
「食べてねえよ。怒るよ、もう」
と笑ってみせた。犠牲者の内縁の夫が「どうか残りの行方を教えて欲しい」と懇願すると、
「俺は彼女を殺して食べたことを少しも悪いとは思ってないし、なんの後悔もしていない。彼女に埋葬される権利があるとしても、そんなことは俺には関係ない」
などと答えたというから何だかすげえ。
公判中、検事がこんな質問を浴びせたこともある。
「あなたは映画の『羊たちの沈黙』は観ましたか? あれにも人喰いが出て来ますが、あなたはあれを真似したんじゃありませんか?」
するとハーカーは不満げに、
「俺のような男は映画の真似はしない。映画が俺たちの真似をするんだ」
しかし、頭に「サブヒューマン」という文字の刺青があるこの男にはインダストリアル・ミュージック・グループ「スロッビング・グリッスル」の影響が窺える。ノイズ音楽の聴き過ぎでバカになっちゃったとしか思えない。終身刑は妥当な判決である。
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