ニューオリンズ在住のエティエン・デシャン(55)はフランス生まれの歯科医である。どういう経緯かは不明だが、
「私には超能力がある」
と大工のジュールズ・ディーチをだまくらかして、
「海賊ジャン・ラフィートの財宝を探し出しましょうよ」
と娘ジュリエット(12)を「霊媒」として差し出すことを要求した。お人よしのディーチはどうぞどうぞと娘を差し出す。ところが、財宝どころか娘を失うことになる。
6ケ月も続いた降霊術だか何だかは「クロロフォルムを嗅がせたジュリエットの上にデシャンが乗っかる」というものだった。世間ではそれを「淫行」と呼ぶ。そして、遂に悲劇が訪れる。1889年1月3日、ジュリエットがベッドの上で裸で息絶えているのが発見されたのである。自称超能力者の歯科医も傷を負って血まみれだ。現場の状況から自傷であることが明らかになった。
傷の回復を待ってデシャンを問いつめると、淫行の事実を認めた。
「だけど、それは彼女が求めたからだ。我欲じゃない。催眠状態になると彼女から求めて来るんだ。それに、故意に殺したわけじゃない。このたびはクロロフォルムの量を間違えて、多めに与えてしまったんだよ。信じてくれよ」
誰も信じなかった。自らの破廉恥行為が明るみに出ることを恐れて、故意に殺害したのだと誰もが思った。謀殺罪で有罪になったデシャンは1892年5月、絞首刑に処された。
最後に私から一言。
だまされた父親も悪い。
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