目玉親父の
HCC2参戦記



久々に参加するレース。


前の晩は、まるで初デートの前日の様に緊張と興奮に包まれていました。
もちろんお目目真っ赤なウサギさんチーム、超睡眠不足状態でした。

「ほかの人に迷惑をかけずに、ちゃんと走れるのだろうか?」

「こけたら仕事に影響するよな、怪我だけはしないようにしないと!」

「ellieさんて友人の噂では美人らしいけど、どんな子かな。タイプだったらどうしよう?」

etc,etc…



考えれば考えるほど、夜が更けるどころか朝が白んでくる、アー寝ないと…



そして、若い時は睡眠不足も少々力が抜けて良いかもしれませんが、
50までカウントダウン状態の私にとってはスタミナ不足を露呈する一日となってしまったのでした。








それでも1時間ほど睡眠をとり、朝4時に那須に向け車を走らせて行きました。

「雨が降っているぞ、予報では早くあがるみたいだけど不安だなぁ」

と思いながらも、

「万が一雨が降っていてウエットだったら自分がスーパーポールに出るじゃないか」

と本当に余計な心配をして、車に載っていたCDを片っ端からかけ、

「よし今日はゼッケンが55番だからタイガースのシーサイド・バウンドにしよう。」

「なんていったってゴーゴーてのがピッタリじゃないか。」
(もちろんスーパーポールでタイガースがかかることはありませんでした。)


順調に那須に到着したころには雨も上がり、遠い空には青空さえ望めるようになり、

楽しい1日を予感させるものとなりました。






受付で初めてellieさんと会う、昨夜私が想像したようなフェロモンタイプでなく、
細い体からエネルギィシュなオーラを放出している魅力的な女性でした。

エントリーしたのは初心者向けのチョコクラス。
しかし予選タイムで再度クラス分けがされるとの事でした。

DUKEで那須は一度だけ走っているが、
前に引張ってくれる人がいると52秒台もあったが
単独走行では53〜4秒だった。

ビューエル仲間のXB9Sに乗るMazyora氏と同じピットに陣取り、

「あまり予選でがんばらず、チョコクラス決勝で表彰台を狙おう」

と清々しい朝のサーキットで、
チキチキマシン猛レースのブラック魔王の様にとてもイヤラシイ策を練ったのです。


もちろん、サーキットの神様はこの二人の中年男を決して許してはくれなかったのでした。





予選一回目、すりぬけきんぐの乗る先導車が5周したが、
やけにペースが速く、暖まっていないタイヤはズリズリ状態でした。

後ろを振り返ると朝からそんな無謀なことをしたのは自分だけで、
他には誰もすりぬけきんぐについて来ていなかった。

どうやら大人になっていないのは私だけのようである。


先導車がピットインした後は、作戦通り回転を6000回転に抑え、
三味線を弾き1回目の予選を走るが、何故か誰も自分を追い抜いていかない。


どうしたMazyora、どうしたエルマー・かやのジレラチーム皆、早く来いよ。

もしかしたら皆三味線弾いているのかな。


一回目タイムは54.7秒でした。




2回目の予選を前にMazyora氏と再度作戦を練り直す。

そして、今度は図々しくも

「チョコクラスでは自分達のスキルアップにつながらないから、頑張って、ホットクラスを狙おう」


とコリステロールと中性脂肪とバイクの振動で腐りきった中年男の脳細胞は、

神を冒とくする様な、恐ろしい結論にたどり着いたのでした。




予選2回目が始まった。

とりあえずタイヤを暖めるため3周ほど流す。

4周目8500回転まで回し走るが、1回目で回していなかったため、
リズムがすぐにはつかめにない。

5週目ツバメ返しの出口ではシフトダウンでタイヤをロックさせてしまう、

それが原因となり、なんとエンスト。


「恥ずかしいなー、ピットから見えないところで良かった」

と思いながら、ダートに出てキックするが、こういう時ほどなかなか掛からない。

キックの鬼、沢村忠(思いっきり旧い)と化し、

十数回キックをした時にはつなぎの中は汗だくになりウエットスーツを着ているような状態になっていた。



やっとDUKEのエンジンにふただび火が入った時、
私の体力は99パーセント消費していたのだと思う。


そして、予選2回目は終了となり、タイムは53.2秒にとどまり、
私はチョコクラスの出走となった。


「くそー、セルさえあれば」

と思ったが、 今考えればこれが最初の神からの天罰だったのかもしれない。


お約束通り、Mazyora氏も天罰を受け、
ミニバイクに手こずりタイムアップが出来ず、
同じチョコクラスの出走となった。




自分たち素人クラスの予選が終わると、トップクラス15台によるスーパーポールが行われた。

トップは茂木チャンピオン、まこっちの乗るGSX−R1000が
44.3秒を出しすばらしい走りを披露していた。


あまりもの腕の差にスーパーポールの曲を用意した自分が情けなくなってくる。

ラブレターを渡そうとした女の子が、
モデルみたいな色男とラブラブで腕を組んで歩いてきたように、

私は打ちのめされた。




気分転換のため、早めの昼食を取り本番に備えようとしたが、
これが最大の失敗だった。


睡眠不足で満腹状態
(いい年をしてカレーライスとコロッケと両方食べた。)

とても眠い、朦朧としている自分を幽体離脱して眺めているような感じだ。


横になるとそのままに5日の朝を迎えることになってしまいそうだ。

必死になって目を開けているが、その目玉はもうシールの目玉と変わらなくなっていた。

Mazyora氏は、体も太いが神経も太いらしく、隣で夫婦そろって熟睡状態だ。




第1ヒートのスタート時間を迎えるが、ヘロヘロ状態のままで、ちっとも気合が入らない。


これからオートバイレースどころか、
深夜飲んだ後にタクシーの中にいるみたいに 頭の後ろがボゥーとして体が重い。

これが、まさか、こんな事につながろうとは、・・・・




スタート順はチョコクラスでは予選3番手という好ポジションを得、フロントローを獲得できた。

私はレッドシグナルが消えてスタートというのは初めての体験だ。

アクセルをあおりながらレッドシグナルが消えるのを待つ。

シグナルは思ったより早く消え、完璧に遅れてクラッチミートする。


ところが、所詮素人クラスのレース、誰もが慣れていなかった事に救われ、

なんとホールショット第一コーナーに入った。




まだボゥーとしていた私は右に曲がるのを忘れ、あわててブレーキング、

一瞬ブレーキをロックさせてしまい、
「アー怖かったなぁー」と人事のように感じる。


前を見るとまだ誰もいない、レースなのに「一番前かヤダナー」となぜか思う。

こんな時に消極的なのは、小学校の頃、授業中指されないように、
先生と目が合わないよう下を向いていたという暗い生い立ちだからであろうか



そのままだらだらと、トップを走り数周する。

ヘアピンを廻った所で、後ろを確認すると、マロのドゥカティSSが10m位 後ろにいるようだ。




私は、一人でのんびりとツーリングをしているような感じで、

レースの緊張感とは程遠いテンションのまま走り続ける。


更に強烈な眠けが私を襲いかかり、ラップタイムは一向に上がらない。

そのまま2周位フラフラと走り続けていると、
ツバメ返しの入り口でブレーキのロック音、

なんとマロのSSが、ブレーキをロックさせて、真横でパニクッていた。


これには私も驚いた、

右にバンクさせようとした先には、硬直したマロがいた。


「マロー、やめてくれ。キーキーいうのは猿の衣装の時だけにしてくれ。」


私は行く方向をふさがれ、ツバメ返しの段差を乗り越えざるをえなかった。


サスの長いDUKEで良かった。少しは目が覚めた気がするが……。


「まずいなあ、後ろつめて来ているじゃない。のんびり走っている場合じゃないぞ。」

ペースを上げようと、体に鞭打つ。

だが、エネルギーを使い果たした体は、思ったように動かない。

さらに一周する、まだトップのままだ、前にバックマーカーがいるのを確認する。




ホームストレッチに戻ると、主催者のエリーさんがニコニコして手を振っている。


「そうか、俺勝てたんで、ellieさんが祝福してくれているのか。」

「可愛いところがあるじゃないかbaby !」

「そういえば、なんかゴールラインの辺で旗を振っていたなー。もう10周したんだ。」

「ちゃんとチェッカー見たかったよなー。」


ストレートでアクセルを戻すと、SSとSRが知らん顔して追い抜いていく。

「なんだよ。GPライダーみたいに握手位しろよ。尻の穴の小さな野郎共だせ!」

私は手を振り、時折ガッツポーズも交えながらヘアピンの観客に答える。

眠くて夢の中みたいで変なレースだったけど、やっぱり一等賞は格別にうれしい。


最終コーナー手前からピットロードに戻りながら

「立ち上がって、手を振った方がカッコ良かったかな?」

なんて思いながら 満面の笑みを浮かべて自分のピットに戻る。



変だなー、誰も出迎えてくれない。

「まっいいか、勝者は孤独だぜ。」

と思っていると向こうの方から998の紫陽花が駆け寄ってくる。


「清水さーん。どおしたのですかー?」

「どうしたもこうしたも、お前、ウイナーの俺に向かってどおしたは無いだろ。」

「ハハァンさてはお前、俺が勝ったのが悔しいんじゃないのか。はっきり言えよ。」

紫陽花は、変な顔して私の目を見ている。




「清水さん、まだレース終わっていないんですけど。」
「だから、壊れたのかと思って走って来たんですよ・・。」


さらに、
「ヘアピンで手を振っているのは、トラブッた合図だと思いました。」

「・・・・・」


 私は声が出なかった。




そして、やっと何が起きたのかが、おぼろげながらも解って来た。

それじゃさっき手を振っていたのは、勝利の女神でなく、賽の河原の脱衣婆だったのか。


隣のピットのkaeruさんが
「どうしたの、壊れたの。」聞いてくる。


「間違えて、1周早く帰ってきたしまったらしい。」

と情けない言い訳。


「何やっているの、もったい無いなぁー。一位だったんだよ」

とkaeruさん。

そしてピットは大笑いに包まれて第1ヒートが終わったのでした。



結果、最下位の14位・・・・(リザルトを見ると、私は8周でピットに入ったらしいです。)




第二ヒートが始まるまでに、私は大変忙しい思いをしなければならなかった。

何故なら、第一ヒートの不始末の理由を十数人もの人に説明しなければならなかったからである。

でもその時、私は恥ずかしくて本当のことが言えなかった。


「周回数のカウント間違えたんだ。」
と嘘吹いてしまった。


「本当は、本当は、ボゥーと走っていて、ellieさんに手を振られたんで終わったのだと勘違いしてしまったのです。」




 心配していただいた皆さん、私は嘘をつきました。

ごめんなさい、反省してます。


それでも、初めて会う十数人もの人に笑われていまう。


本当の事言ったらもっと笑われるかと思うと、落ち込む、落ち込む。


これは何としても第二ヒートはがんばらないと二度と人前でオートバイに乗れないと思い、リベンジを誓う。

洗面所の水で顔を洗い、気合を入れる。


(こんなので気合入るなら、最初から入れろ)





第二ヒートのスタートラインに並ぶ。


5列目から前を見るとトップは、はるか遠く感じるが、

今度のスタートはアドレナリンは上昇モードとなっていた。


シグナルが消えると同時にクラッチをミート、さっきよりは上手くいったようだ。


その時視界の片隅にに信じられない光景が映った。


ポールのマロのSSが真横になって寝ている姿であった。

(後で聞いた話では2位のかやのSRと接触したらしい。)


騒然としたスタートを抜け第一コーナーを抜けたとき、私はすでに3位になっていた。


信じられない程の良いスタートであった。


俺は、ロン・ハスラムよりスタートが上手いのではないかと思えてしまう。


「ロン、今日からロケットの称号は俺のものだぜ !」




マロの転倒で1,2周の間イエローフラッグが出ていたため3位のままで走り続けた。



第二ヒートの私はファイティングスピリットの塊になっていた。


イエロー解除後の一周目に二台を抜き去り、難なくトップに立つ。

今度はさっきみたいに集中力を欠如させないよう自分に言い聞かせラップを重ねるが、

前に目標がいないとどうも燃えてこない。


その時に大事なことを思い出した。

親父のアドレナリンは3分しか持たないということを・・・。




ホームストレッチでまたellieさんが手を振っている。

「今度はもうvintage slimな色香に迷わないぞ。」

と一瞥をくれる。


ゴールラインではじめて見る、ラスト1 lapのサインを冷静に確認した直後に、

このレース最後のドラマが展開した。


なんと、トモカズのGSX-R750が第一コーナーでインをさしてきたのだった。




後ろがいないと思っていた私は、少々あわてた。

然し、GSX-Rはインから入りすぎて出口で失速してしまったため事なきを得た。

「オット、危ないなー。」

すぐ後ろに2位がいることがわかり、私は懸命に1周を走りきった。


最終コーナーでは一寸力み、アクセルを開けるのが早すぎたため、リアが大きく流れたが、

冷静に対処できた。


皆に笑われた後のうれしい勝利だった。



こういう時にこそ、

「この勝利を君にささげる。」

なんていう相手が欲しいものだ。





来年は犬か猫でも連れてくるか。




その後の表彰式では、第一ヒートの結果から、思ってもいなかった3等賞をいただき、

表彰台に乗れたことはとてもラッキーだった。


いい年をした親父が一番遅いチョコクラスの三等賞ではしゃいでいるのを見て、

若者たちは何を感じたのだろうか。


「ダッセーな、あんな親父にはなりたくないと・・」

思ったかもしれないが、君たちにも老いは確実にやってくることを忠告しておこう。


そして、表彰式での唯一の不満は、三等賞のメダルをくれたレースクイーンが、


決してキスをしてはならない相手(mrs.Mazyora)だった事である。




帰りの車の中で、今日一日を振り返る。

いろんな事があったな、でも本当に楽しかったな。


那須は電波も悪く携帯も鳴らないので、仕事のことなど完全に忘れることが出来た。


そして何よりもHeartが少年時代にタイムスリップした様に感じたのが、うれしかった。

車のスピーカーから流れるStand By Me は、

今日の自分のエンディングテーマに はまっていると思い、

胸に妙にしみこんだ。




帰路は週末にもかかわらず、順調に流れ9時前には愛すべき家族の待つ家に到着した。

玄関で出迎えてくれたのは、アメショーのミュウミュだけなのは少々寂しかったが、

扉を閉めるより早く妻 (B型、さそり座) に今日の結果を話した。


「ちょっと第一ヒート失敗しちゃったんでビリだったけど、第二ヒートは勝ったんだ。 総合で三等賞だったよ。」

と私。



「なにやってんのよ、ダーメねぇ。それより犬の散歩、私ばっかりにやらせないでよ。」

とつれない答え。

何でもう少し、チョットでいいから頑張ったね、お疲れ様アナタ、と言ってくれないんだ。






妻をあきらめ、今度は子供のほうを見て、

「パパ今日がんばったんだ。三等賞になったよ。ほらこんなメダルもらったんだよ。」

「パパが三等なんて、ずいぶんレベル低いレースだね。」

と言い捨て、二階に駆け上がっていく。


、ダッダッダッとすぐに駆け下りてきた手には、 輝くゴールドのメダル。


息子は得意そうに

「パパの銅じゃない、僕のは金さ。」

と胸を張る。




隣で妻が満足そうに

「航は偉かったのよ。全国小学生硬筆コンクールで金賞もらったのよ。」

私は、無口な暗い父親になった。


海の底に沈む貝殻のように何も言わずに、風呂につかったのだった。




「父親を尊敬しない、妻と子には、罰を与えてやらなければならない。」

「そうだ、サマージャンボが当たっても一人で遣ってやろう。」

「その金で180万円の 950-DUKEを買って、来年のHCC3はスーパーポールを走ってやろう。」




と心の中で叫んだ。





……… そして目玉親父は一人ニヤニヤしながら泥のような眠りに落ちていったのでした。