このQuodlibet とは「ごたまぜ」、「寄せ集め」とか、「メドレー」という意味のドイツ語です。

過去の Quodlibet: 2000年 12月


23日、24日にかけて、札幌に行ってきました。目的は、Ensemble "Unite" の練習に参加すること。新しい楽器のお披露目は、是非ここで、と決めていたので、Schagerl を持って札幌入りしました。

練習は24日ですが、その前の日に、Unite のクラリネット奏者である杉村さんと、夜中まで音楽談義に花をさかせました。一緒にDVDを見て、色々とお話をしました。杉村さんと音楽の話をしていて面白いのは、その演奏の素晴らしいところを見つけて、それが何故素晴らしいと感じるのかを、ディスカッションできる点です。その反対で、酷評される演奏もありますが、それはそれで理由を掘り下げていくこともあります。こんな事を書くと、非常に理屈っぽい話をしているようですが、お互いに確信のある直感で意見を交わしています。これは私にとって何ものにも替えがたい時間です。

一緒に見た DVD で、一番印象に残ったのは、バレンボイム/シカゴ交響楽団のマーラー5番を吹くトランペット首席奏者のハーセス先生です。感銘を受けた音楽家には、お名前に先生をつけて呼ことにしています。柔らかく、太い音。トランペットを吹く、というのは結構な重労働ですし、しかもマーラー5番といえばトランペットの音に象徴された英雄の詩のようなもの(だと勝手に思っています)ですから、さぞや大変だろうと思うのですが、そんな世俗的なものから一切離れた素晴らしいものでした。トランペットを吹く姿には、全然力が入っているようには見えませんし、失礼な話ですが、指で頬を押したら、良い音が出そうです。きっとハーセス先生の体には良い音楽が一杯つまっているのだと思いました。この境地に達するのは大変だと思うのですが、良いイメージができました。

さて、肝心な24日の練習ですが、これは2月4日の本番を意識したものです。この日の練習は、個人的には楽器に振り回されている内に終わってしまった、というのが個人的な感想です。久し振りに会った仲間達の音から、いろいろレベルアップしている点を見つけられたのですが、そこに溶け込みきれなかったのは、全く持って私の不徳でした。あれこれ言い訳を言ってみても仕方がないので、個人的に直して行きたいことを書いてみようと思います。

とにかく、楽に音を出せる様にすること。今回は、ガリガリとやたらに力んで吹くことばかりをしていたのですが、これは今の楽器の特性を生かせる吹き方とは思えないので、もっと効率の良い鳴らし方を研究してみようと思います。札幌から帰ってきてから、別なマウスピースを試してみたら、そちらの方が力まないで音を出せることが分かったので、もう一度、楽器とマウスピースの組み合わせを検討してみようと考えています。今までは、自分の口にあったマウスピースを探していたのですが、今度は楽器との相性も考えよう、というわけです。なかなか難しいですね。

あとは、もっとメンタルな面で安定して吹けるようにすること。これはもう、いろいろ準備をしておくしかないかなぁ、と思っています。今回の練習で、テンポ設定や、曲の入り方など、基本的な情報は得られたので、それをもとにイメージ作りをしておこうと思います。私は器用な方ではないので、そういうイメージを作っておくとうまく行くことが多い様です。本当は、もっと一緒に練習をしたいのですが、時間や経済的な問題があって、なかなかそうも行かないのです。この点では仲間に迷惑をかけてしまうかもしれませんが、情報交換をして、ちょっとでも埋めていければと思っています。

楽器は一人で練習していても、上手くはならないものの代表でしょうね。他の人から、良いとか悪いとか、いろいろなコメントをもらったり、他の人の演奏を聞いて、自分の考えを言ってみたりしていく内に、自分にあった吹き方や、音楽のフィーリングがつかめてくるのだと思います。率直な意見やコメントを教えてくれる人が多いので、ここ(Unite)で吹くことは、いつも勉強になります。これからもよろしくお願いします。

今日は御用納めです。明日から実家に帰ろうかと思っています。実家では母のクラシックギターと、ハイドンのトランペット協奏曲の第2楽章を合奏する計画を立てています。時間はかかると思いますが、それはそれで楽しみです。(2000/12/28)


ミュートをはずして思いっきり鳴らしたい欲求をおさえつつ、楽器の音程チェックをしています。MIDIシーケンサに、教則本の一番最初の方の楽句を入れて、一緒に吹いてみました。驚くべき事に、音痴でした。何がって私が。

特に実音のD(in B でミ) の音が異常に高いのです。その事自体は、抜き差し管で調整できるので、たいした問題ではありませんでした。また、管を抜く事で、他の音の音程も改善されましたので、楽器の設計通りということなのだと思います。

しかし、問題は、自分でそれに気付かなかったこと。最初は、シーケンサの音程がおかしいんじゃないかと思ったくらいですから、これは重症ですね。今、激しい自己嫌悪に陥っています。 (2000/12/19)



新しい音を手に入れました。Schagerl。オーストリア生まれのこの楽器は、「生まれの良さ」をそのまま音にしたような音色を持っています。一般的なトランペットのイメージは、直線的な音の伸びであったり、巨大なハンマーで叩かれたような衝撃であったり、色々ですが、この楽器は、そのどのイメージとも合い、また、どのイメージとも違っているような気がします。俗っぽさがなくて、天上的な響きがするのです。

この楽器を選ぶに当たって、何軒かの楽器屋さんを訪ねました。そして色々な楽器を試してみました。ウェッバー、リコキューン、マイヤー...。楽器を選ぶに当たって、大事にしたことが2点あります。まず第一に私にとって吹きやすいこと。楽器の抵抗に負けて息がまっすぐに入ってくれない楽器は、私の体に合わないものとして却下しました。この時点で、ウェッバー、リコキューンは見送りになりました。(ひょっとしたらマウスピースを替えれば、もっと吹きやすくなってくれたかもしれませんが、そこまでの余裕はなかったのと、次の点を気にしていたので、いずれにしても見送りです)。

楽器選びで大事にした第二の点は、どれだけイメージ通りに吹けるか、という点です。どの楽器でも、必ず吹いた旋律があります。あるバッハのコラールの一節なのですが、それを吹いてみて、自然に歌えるものを選ぶことにしたのです。その結果、残ったのが Schagerl とマイヤーです。

マイヤー。楽器工房は旧東ドイツの街、ドレスデンにあります。工房の歴史は古いのですが、最近、30代後半位の若い職人さんに代替わりしたという話を、銀座の楽器屋さんが教えてくれました。まさにドレスデン・シュターツカペレの、あのオケの音がします。暗く、重く、太く、説得力のある音がします。『この楽器をオケで吹くと、木管や弦楽器と音色がぴったり揃う。かといって自己主張が無いわけではなくて、ここ一番での鳴りは充分なものがある』、というのは楽器屋さんの言葉です。その言葉に異論は全くありません。その音から受けた衝撃は、カペレのコンサートで感じていますし、今年の始めに同じ楽器を試奏した時に体験しています。今回はそれを再確認した、というわけです。

正直、迷いました。Schagerlか? マイヤーか? この質問は、ウィーンフィルとカペレのどっちを採りますか?、という質問に非常に似ています。「ベルリンフィルは育ちが良く、ウィーンフィルは生まれが良い」。この言葉にはカペレが語られていませんが、私が言うとすれば、「カペレは良い歴史と伝統を持っている」。それぞれのオケは、ベクトルの方向が違うだけで、抜きんでた表現力と世界を持っています。これを比較しようというのはそもそも問題が間違っているというものです。

今回の結論は Schagerl。あらゆるシーンに対応できる要素をもっています。これさえあれば、ピストンバルブのラッパは不要かもしれません。

しかし、ものすごく不思議な楽器なのです。とらえどころがないというか、まだツボが良くわかっていません。サイレントブラスをつけて練習するのが、ものすごく苦痛です。外に音を響かせてみたい欲求にかられます。

でも、もし次に C 管を買う機会があるとしたらマイヤーにしようかな。(2000/12/17)