面白恐竜学2004年 4月〜9月

2004年4月期講座の授業風景^^)

 9月11日の講座内容について

 今回は一応、今期の恐竜学講座最後の授業です。とはいえ、来期も講座が持続されるだろうという楽観的な見通しで竜盤類(サウリスキア)の話をしました。

 竜盤類、サウリスキアとはブラキオサウルスのように首の長い植物食恐竜とティラノサウルスやアロサウルス、鳥などといった肉食恐竜がつくりあげている系統です。くわしくはこちら(→身近な生命の樹:サウリスキアへ)。

 ようするに恐竜と呼ばれる動物たちは以下のような系統関係にあるのですが、

_________ヒプシロフォドン

   |____トリケラトプス

 |_______プラテオサウルス

   |  |__ブラキオサウルス

   |_____アロサウルス

     |___ティラノサウルス

       |_カラス

 サウリスキアとは以上のピンクの部分のことなのですね(ちなみに緑の部分はオルニスキア)。サウリスキアに属する動物たちは先ほどのいったように2つの大きなグループにわかれます(あるいは2つの大きな系統に分かれる)。1つはブラキオサウルスやプラテオサウルスのようなサウロポードモルファ。もうひとつはアロサウルス、ティラノ、カラスのような肉食恐竜、すなわちテロポーダ。

 この両者はあまりにも違いが大きいのでまったく関係ないグループであるといわれたこともあります。でも系統解析を進めた研究者たちは、どうもサウリスキアはサウロポードモルファ+テロポーダで大丈夫なようだ、という点で一致しています。そういうことで今回の講座ではサウリスキアを説明し、さらにこの系統を支持する特徴について解説しました。

 解説した特徴は アシンメトリックな手、サブナリアルフォラメンの存在、長い椎体などです。

 とはいえ、サウリスキアに属する動物たちはかなり外見が変化しているものが多いのでサウリスキアの説明はまた次回も引き続いて行う予定。特にプラテオサウルスが所属するプロサウロポーダ(古竜脚類)とブラキオサウルスが所属するサウロポーダ(竜脚類)がどのような関係にあるのかを論じつつ、サウリスキア全体の特徴を説明していく予定です。

 次回の講座は2004年10月9日、読売文化センター横浜 15:30からの予定

 

 7月10日の講座内容について

 前回までで鳥盤類(オルニスキア)の系統をおおむね説明。ティレオフォラについてはいわずもがな、マルギノケファリアについては(たとえマルギノケファリアを束ねる特徴が微妙だとしても)まあ納得してもらえるだけの証拠をしめしました。

そして次ぎのような系統樹を作成してもらった次第。

_____________プラテオサウルス

 |___________ステゴサウルス

   |_________トリケラトプス

     |  | |__プシッタコサウルス

     |  |____プレノケファレ

     |________ヒプシロフォドン

         |____ドリオサウルス

(注:講座で教えた系統樹をHPで紹介してよいのか?って疑問を持つ人もいるかもしれないので補足しますけど、系統樹の形もそりゃあ大事です。でも本当に大事なのは、どんな方法でどんな特徴を見つけてこの系統樹を作ったか?、ということなんですよね。以上の系統樹の形だけではあまり意味はありません。よーするに答えよりも答えを導いた方法の方が大事。系統樹の形ってだけでは上っ面。講座ではもっと肝心な話をしています。)

 さて、今回はオルニソポーダの説明とヘテロドントサウルスがオルニソポーダなのか?、それともマルギノケファリアなのか?って話をしました。ようするにヘテロドントサウルスが以上の系統樹のどこに入ってくるのだろうか?って話。

 講議全体の目的としては、

 1:ヘテロドントサウルスを加えることでオルニソポーダ(鳥脚類)が前よりも堅く見えてくる

ってこと。これに関しては頭骨の塗り分けをしてもらうことで説明。

 そして2点目は最近一部の本であるような、

 2:ヘテロドントサウルスがマルギノケファリアであるってアイデアは研究者には一般的に認められていない

 ってこと。

 ではなぜ認められないのか?。一部の本やサイトではヘテロドントサウルスがマルギノケファリアである、ようするにヒプシロフォドンよりもトリケラトプスに近いってアイデアを公開しています。でもこのアイデアの根拠として”坐骨の閉鎖孔突起がない”とか”前恥骨突起が腸骨の前方拡張部分よりも小さい”をあげているのはかなりまずい。(ひとつの面白い参考として、セレノが関わった1997年の文章では、" Other features characterizing marginocephalians involve changes in pelvic structure : loss of a bony process on the ischium,........(Sereno 1986 ). "[Forster & Sereno 1997 Marginocephalians [ The Complete Dinosaur] Indiana University Press pp318] とあるのにたいして、Sereno 1999 The Evolution of Dinosaurs [Science 1999, vol.284 pp2137~2147 ] ではこの形質は使われていないのですよね^^)

 なぜならこれらの特徴はまず間違いなく原始形質だからです。この言い方が分かりづらいのなら、次ぎのような直感的な言い方ならどうでしょう?。

 ”坐骨の閉鎖孔突起がない、とか、前恥骨突起が短い、からヘテロドントサウルスがマルギノケファリアであるとあなたはいう。では、同じく閉鎖突起がなく、前恥骨突起が短いステゴサウルスやプラテオサウルスもまたマルギノケファリアだというのか?”

 例えばの話、次ぎのような血縁関係にある生物たちがいて、これらのうちA種からC種までが短い角を持っているとしましょう、

__________A

 |________B

   |______C

     |____D

       |__E

 さて、私達はAからEまでの血縁関係を調べようと思ったとします。当たり前の話ですが私達はこれらの動物の血縁関係を実際には知らないので、手持ちの手がかりから推論しなければいけません。さて、その時、短い角、長い角、という特徴で系統樹を作ったらどうなるでしょう?。

__________A

  |  |____B

  |  |____C

  |_______D

    |_____E

 ↑こんな風になってしまいます。これ、明らかに実際の系統樹とはまるで違うものですね。特に、A種とB種、C種がひとつの系統を作ってしまっている。これは大きな間違いです。こうなってしまった原因は原始的な特徴、”短い角”を使ってしまったからなのです。このように原始的な特徴を使って系統樹をつくったりグループを作ったりしてはいけません(分類ならともかくね。いずれにしても分類と系統は違うわけだし)。

 同じ理由で、閉鎖突起がないとかそういう理由でヘテロドントサウルスをマルギノケファリアにしちゃあいけません(どの形質が原始形質かどう調べたらいいのかって疑問を持った人は手ごろな教科書を見てね^^)、受講している人たちにはおいおい説明する予定)

 

 6月12日の講座内容に関して:考察的付記:サウリスキアと北村の授業の妥当性

 12日の恐竜学講座ではサウリスキア(竜盤類)の話を少しだけしました。このような話をすると、講座にきている人たちに北村の話がどの程度妥当なのか?、それをどう保証すればよいのか?、そのような疑問というか懸念を、いつも持ってしまいます。これは重要だけど、解決が難しい問題ですね。

 一般の普及書を読んで恐竜に詳しくなった人と、論文や科学の世界とではしばしばそごが生じます。竜盤類というものの受け取り方はその典型的なものです。

 例えばの話、Aくんと北村くんという二人の人物が別々の講座で話していて、

 Aくんは、竜盤類という分類群は解体した。あれは古い分類群で、今どきそんなこと言っているやつはバカだ。

と言ったとします。

 北村くんは、竜盤類が解体したという人がいるが、それは系統解析が普及する以前の科学でない見解に基づいています。竜盤類の単系統性(サウロポードモルファ+テロポーダという意味で)は今でも健在です。もっとも少し弱いようにも見えますけどね^^)

 と言った。

 さて、2人の言ったことはまるで違う事柄ですが、それぞれの講座を聞いた人はそれぞれ納得するんじゃないでしょうか?。

 もちろん、北村は自分の見解の正統性を訴えることができる。でもAくんも正統性を訴えるでしょう。もちろん、Aくんの言い分、おそらくそれは、○○さんが言っている、とか、サウロポードモルファとテロポーダはまるで違うじゃないか、といった程度のものでしかないと思いますが。ようするに北村にいわせると説得力がない。

 だがしかし、北村の正統性の訴えの方がAくんのものよりも説得力を持つかどうかといったらどうだろう?。

 北村の主張、異なる動物と比較することでサウロポードモルファとテロポーダの共通点を見つける、その共通点でグループを作ることの妥当性はさらに異なる動物との比較で確かめることができる、最節約というアルゴリズムを使う、そのアルゴリズムの妥当性や便利さはこのとおりである、

 さて、このような主張は説得力を持つのでしょうか?。

 持つ場合もあるし、持たない場合もあるでしょう。北村は仮想人物Aくんの主張よりも自分の主張(正確にいうと北村が受け入れた科学の主張)が妥当だとは思うし、そのことに確信をもっている。でも皆がそう判断する保証はない。人間はすべて同じものではない。

 さいわいにも北村の講座にきている皆さんは以上の説明で納得してくれているのです。

 とはいえ、北村は北村自身の授業内容が妥当であることを示すことができるけど、その主張の妥当性を受け入れるかどうかは聞く人次第でもあるのですよね。実際、仮想人物であるAくんの言うような正当化を受け入れる人もいるのでしょうねえ。

 

 2004年 6月12日

 本日の授業内容はマルギノケファリアとオルニスキアの系統について。マルギノケファリア、これはトリケラトプスのような角竜類(ケラトプシア)とプレノケファレのような堅頭竜類(パキケファロサウリア)を合わせた系統です。

 マルギノケファリアは”この系統を支持する特徴”がけっして多くないのでどちらかというと弱い印象のある系統ですね。頭骨図に用いたのはプレノケファレとトリケラトプス、プシッタコサウルス。いずれもかなり特殊化した頭なので、どこがどれだという解説にはそれなりに苦労しました。

 でも授業を受けている皆さんはどこがジャーガルなのか、とか、どこがプレマキシラでどこがポストオービタルなのかなどかなり理解しているので、おおいに助かったりしています^^)。ゼロからやったらこうはいかない。

 また今回からはプラテオサウルスの頭骨レプリカも授業に使用。使用する前はプラテオサウルスの頭骨なんて役に立つのだろうか?って思っていたのだけど、意外と役に立ちました。なぜか?。

 それはプラテオサウルスがかなり原始的な特徴を残しているからですね。北村の持っているオルニソポーダの頭骨などは特殊化しすぎていて、こうはうまくいきません。プラテオサウルスは比較する時に重宝しそうです。

 最後はオルニスキア(鳥盤類)全体の系統と系統を特徴づける形質を解説しました。それにしてもオルニソポーダ、あれがひとつにまとまるというのを説明するの意外と難儀なんですよね。難儀なのにもかかわらず一見するとオルニソポーダがきれいにまとまるように見えるのは、全体的に類似しているからでしょうか?。

 類似、いやな言葉だ・・・・・・・。

 次回はそれこそ類似がかかわってきそうな話。ヘテロドントサウルスはマルギノケファリアかオルニソポーダか?という話をします(誤解しかねない人もいるんで書いておきますけど、マルギノケファリアじゃあありませんよ、念のため。一部で言われている、ヘテロドントは閉鎖孔突起がないのでマルギノケファリアだ、ってのはひどすぎる考え方です。原始形質でしょ?あれは・・・・)。

 

 2004年 4月&5月

 恐竜学講座は2004年、4月から横浜のみでの開講です。4月10日と5月の8日に行いました。次回は6月12日。

 さて、話した内容は北村が持っているある恐竜の頭骨のレプリカについて。左の画像は北村のスケッチをアップしたものですが、受講生の方々にもこのようなスケッチしていただいて、以下のような話や質問、考察を展開。

 :この頭骨はどんな恐竜のものだろうか?。

 :もしこの頭骨がいわゆる草食恐竜とか鳥盤類(オルニスキア)と呼ばれるものだとしたら、これがオルニスキアであるという根拠は何だろう?。

 :オルニスキアには幾つかのグループがあります。この頭骨がオルニスキアのものだとしたら、これはどのグループのものだろうか?。

  

 :この頭骨は鳥脚類(オルニソポーダ)のものかも知れません。もしそうだとした場合、この頭骨がオルニソポーダのものであるという根拠はなんだろう?。

 :この頭骨がオルニソポーダであるとしたら、これはヒプシロフォドンに近いだろうか?。それともドリオサウルスか?、それともイグアノドンか?。あるいはそれらよりも派生的か?。そしてその答えの根拠は何か?。

 :この頭骨にプレマキシラはあるだろうか?。あるとしたらどこか?。ないとしたらどこに関節していたと考えるべきだろう?。

 :この頭骨のラクリマルはどこか?。ジャーガルはどこか?。どこがラクリマルとジャーガルの境界だろうか?。そしてその根拠は何か?。

 :どこがラクリマルなのか?。その判断によってこの頭骨が何者なのか?。その答えが変わってしまうかもしれない。さてどうしてだろう?。

とっまあ、こんな具合に話を展開。次回は6月12日はマルギノケファリアとオルニスキアの系統全体の話に入る予定

 参考:オルニスキアについてはこのコンテンツを参考のこと。なお、講座では当然のことながらコンテンツの説明よりも詳しい話をしております^^)

 

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