誕生日とプレゼント3



「……察するに、どちらが本物かを当てろという趣旨なんだろうね」
「「ああ、そうだとも」」
「どちらかは魔法で作られた偽者?」
「「その通り」」
「実は双子だった、とかいう訳でなく、誰か協力者が演じている訳でもない?」
「「お前の誕生日はできれば独力で祝いたい」」
「……君達同時に喋るのはやめないか?視界がブレているみたいだ」
「それは済まなかった」
「便宜上、君をシリウスA、君をシリウスBとしよう」
「シリウスB?」
「話が前に進まないから。君が本物か偽者かは知らないけどちょっと辛抱してブラックのBだとでも思ってくれ」
「仕方ないな。分かった」
「じゃあ俺はシリウス・アラックなのか」
「シリウスA、混ぜっ返さない」
「先生っぽいな。先生質問です、好きな男性のタイプは?」
「アルバス・ダンブルドア」
「「・・・・・・」」
「じゃあ私から質問をしていいかな」
「リーマス、今の好きな男性の話だが……」
「冗談だから。ほかにもシリウス・ブラックやジェームズ・ポッターが好きだよ」
「なんだか気持ちがこめられてないな……」
「ああ、おざなりだったな……」
「さすがに意見もぴったり合うね。肝心の質問なんだけど、ジェームズとリリーが決闘したとき、ジェームズはなんで負けた?シリウスA」
「めがね曇り呪文が原因で敗北」
「正解。ではシリウスB、君とジェームズが一番愛していたムービー・スターは?」
「ブルース・リー」
「まあきっと君の事だからこの方向は完璧で、綻びなどないだろうね」
「どうかな」
「でも何かヒントがあるはずだ。たとえばどこか一箇所が違うとか…ホクロの位置や…」
「なるほど」
「……君達、ちょっとシャツを脱いでみなさい」
「なんだって?」
「君には殆どホクロがない。背中にある1つくらいしか覚えがない。それを見せてくれ」
「真昼間からストリップか……」
「いいから脱ぎなさい。減るものじゃなし」
(衣擦れ)
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「うん、両方ともにホクロがあるね。同じ位置だ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「いやしかし君みたいな容姿の人がそんな格好で2人立つと、まるで神殿か何かの入口みたいだ」
「服を着てもよろしいでしょうか教授。それともこのまま踊りましょうか?」
「君達がソシアルダンスでも踊ったら、それはそれで見ごたえのあるものになりそうだけど……風邪をひいては可哀想だ。服を着て座ってくれ。すまなかったね」
「まったくだ。恋人の服を脱がせておいて、一瞥しただけでまた服を着せるなどとんだ怠慢だ」
「離婚訴訟ものだな」
「……君達は本当に気が合うようだね。確かに服を脱がせて何もしないというのも冷たい扱いだ。キスでもしようか」
「なに?!」
「今日のリーマスは妙に積極的だな。つまらないゲームなど企画せずに何か違う路線で行けばよかった」
「違うから。誤解しないでくれ。君の考えそうな事を一生懸命推理しているんだ。キスで魔法が解けて終了するゲームなんて、いかにも君が好みそうだろう?」
「ああ、それで」
「第三者がこの場にいないことは、さっき確認したしね。ではシリウスA、立ちなさい」
「そんな口答試験みたいな事務調で言わなくても……」
「後がつまっているからね」
「ではお手柔らかに」
「こちらこそ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
(1分経過)
「……気をつけろシリウスB、大人のキスでメロメロだぞ」
「本当か?まさかこんなアダルトなゲームになるとは想像してなかったな!」
「キスは見当違いなのかな……しかしまあBの君が消えるという可能性も無くはない。それにしても君が見ている前でほかの人とをキスをするのは緊張するものだね」
「おかしな言い方をするな。どっちも俺だろう。ここを修羅場に変えたいのか」
「シリウスA黙って。シリウスB、こちらを向いて立ちなさい」
「何か妙な気分になるな」
「同感だ。シリウスB。命令形がたまらない」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
(1分経過)
「消えないね。それにどちらも普段と全く同じキスだ」
「ごちそうさまでした教授」
「……でもすごい。これで片方が偽者なんて。自律で動いているんだろう?」
「そう。あらかじめ予想される応答を全部覚えさせてある」
「仕込みに1年かかった。凝り性だからな俺は」
「うーん、そうすると予測にない会話には反応できない訳か。……君達、グリンデローは好きかい?」
「「特に興味はない。お前の趣味は理解の範囲外だ」」
「……お見事。では、もしこの場で私が全裸になって股を開いたらどうする?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「今のは予測にはなかった訳だね。成る程。本物のほうも必然的に反応できない、と」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「しかし本物のほうはコメントをしたくて、さぞやうずうずしているだろうなあ。でも表情が変わらないところは流石、年寄っても悪戯仕掛け人だ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「まあ要するに、私がこの場で、君が予測しておらず、なおかつ本物の君が顔色を変えるような振る舞いをして見せればいいわけだ……」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「しないけど。いくら君でも私の誕生日にそんな滅茶苦茶なゲームを企画したりはしないだろう。もっと簡潔なヒントがあるはずだ」
「「ヒントはある」」
「ずっと考えている。きっと単純なものの筈だ……。ちなみに私が正解しなければ、私達はこのまま3人で暮らすのかな?」
「いや、それはない。日没と共に偽者は消える」
「耳の形?歯の形?アニメーガス?君達、パッドフットになってごらん」
「「お安いご用ですよ先生」」
「うわ、2匹もいると部屋の中が一杯だね。ありがとう、もういいよ…。うーん、何だろう。爪の形?」
「先生、散歩にでも出れば気分転換になって良いアイディアが浮かぶのでは?」
「3人で?それはそれは壮絶に目立つだろうね」
「犬になってもいい」
「目立つ度合いに大差はないと思うけど。あばら骨の数かなあ……どうだろう」
「どうしても俺達を裸にしたいらしいな」
「いっそ下も脱がせたらどうなんだ」
「君達が脱ぎたいなら止めはしないけど、その間私は退室しているよ。歌声……体重……足の指の形?うーん、大体君とジェームズの考える問題は全般的に難しすぎる傾向にあって……」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「……あ、分かった。本物は君だね、シリウスA」
「……ヒントに気付いたか?」
「いや、残念ながら」
「そんな馬鹿な」
「考え込んでいる私を前に、シリウスBは優しく笑っていたけど、君は少し困っていた」
「・・・・・」
「君は劣等生の気持ちが全然理解できないくせに、私の学習が遅れていたりするとありとあらゆる方法でそれを改善しようとしてくれた。昔からそうだ。君は出来ない子に弱いんだ。昔と同じ顔をしていたよ、今の君」
「そうか?」
「そうだよ。で、ヒントは何だったのかな?」
「影。偽者には影がない」
「あっ……」
「いや、そんなに落ち込む事じゃない。立ち上がって足元を見れば気付いたさ」
「基本の基本だ……ああそれで日没までか。散歩に行こうって……そういう」
「まあヒントだな」
「妙なルートで解いてしまって済まない……」
「予想外だったな。お前らしいといえばお前らしいが」
「久し振りにすごく考え込んだよ。ありがとうシリウス。楽しかった。日没まで時間はあるし折角だから3人でお茶でも飲もうか、シリウスB?」
「もうそれは喋らない。俺が『ヒントに気付いたか』と言うと、以降喋らないようにしてある」
「なんだか可哀想だから3人で会話しないか?無理かな」
「可能だが。純情な奴だから、股がどうのとかいう過激な発言は慎んでほしい」
「そんなこと言ったっけ?」
「……先生は忘れっぽくていらっしゃる。ところで3人でお茶を飲む前にキスしませんか?教授。偽者とのキスの方が3秒長かったのが気になっている」
「……自分相手に張り合って……」
「あと、誰かに見られながらのキスが、意外に楽しい事に気付いた」
「悪趣味だな」
「来年は更に増えて4択にしようか」
「ゆくゆくは全員君のワールドカップでも開催するつもりかな」
「ああ、雑談をしているうちに日没が来てしまう。立ちたまえ、リーマス・ルーピン」
「こちらのセリフだよ。立ちなさいシリウス・ブラック」
(1分経過)
「誕生日おめでとう。キスをごちそうさまでした教授」
「ありがとう。こちらこそ。今日は君とのキスでお腹一杯だよ私は」






全年度について書ければよかったのですが無理なので
2人のシリウスをチョイス。
同居人としてのシリウスは
めんどい面も多々あるだろうけれど、楽しそうな生活だなあ。
先生の誕生日を世界で一番熱烈にお祝いし、
世界で一番先生を幸福にするのが彼だといいなと思います。

50人のシリウスとかも遣り甲斐がありそうだよね。
「舌が緑色のシリウス」とか「まぶたが下についているシリウス」とか
バッタもんみたいなやつもいっぱいいて、
先生が笑って笑って倒れちゃうの。ふふふ。

2008.03.10