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 友人のシャツのボタンを2つばかり外した後、シリウスは突然思い付いたように言った。
「そうだな、お前はもう少し感想を言うようにしたらどうだろう」
 それは素晴らしいとは到底いえないタイミングだったので、当然ながら何の話なのかをルーピンは掴み損ねて、しばし髪を乱したまま考えた。
「その、こういう事をしている最中に?」
 「いかにも」とシリウスは頷く。「普通はそういうものだ」とも。
 この事柄に関して「普通」を持ち出されると、知識の乏しいルーピンは大人しくハイそうですかと返事をするしかない。よって彼は素直に、そして真面目に吟味した。
「感想というと、読書感想文のような要領でいいのかな?『現在の主人公の気持ちは云々』とかそういうの」
「俺の気持ちについて何をどう語るんだ?教授」
 声を低くしたシリウスが至近距離から顔を覗き込んできたので、ルーピンは自分の答えが何やら的はずれであった事を悟る。
「では料理の感想を述べるようにかな?君はああいう場においてとても見事な表現で語るけれど、私は語彙が貧困であまり感想は得意では……」
「……短い言葉でいいんだ。身体が感じたことを、簡潔に囁いてみるといいハニー」
 そう言った彼の右手はシャツの裾から侵入し脇腹を撫でた。同時に左手はルーピンの髪を梳き、ゆっくりと額に唇が落とされる。
「ピアノ」
「何だって?」
 唐突に関係のない言葉を呟いたルーピンに、驚いたシリウスはもう一度顔を覗き込んだが、真剣そのものの表情をした彼はそのまま言葉を選びながら話し続けた。
「君は右手と左手で拍子が違う曲を弾いたりするじゃないか」
「…………拍子?…………ああ、そうだっけ」
「私はあれを目の前で弾いてもらっても、何がどうなっているのかさっぱりわからない。それと同じように、君が唇で強く吸って、左手で引っ掻いて、右手で撫でる、私はそれを全て知覚する事ができない。刺激が多すぎて」
「……………………」
「君は器用だなと思う。それからぼんやりとだけれど、気持ちが良いと思う」
「……………………」
 一生懸命言い終えたルーピンは、友人が固まった状態で話を聞いているのを見て、瞬きをした。
「感想、のつもりだったんだけど。こういうのでは、ないのかな……?」
 しばらく黙った後、シリウスは出来るだけまじめな顔になるよう努めながら言った。
「俺の方からも感想を言わせてもらうなら、常に予想の右斜め上をいくお前は、最高だと思うよリーマス」
 そうして器用だと賞賛を受けた右手と左手で、彼の衣服を取り払う作業を再開したのだった。





先生、天然で悩殺セリフ。

拍子が違うというか、
八分音符の3連に十六分音符が4つ入る
有名な例のヤツですが。
そもそも何であんな曲を思い付くのか
そのプロセスが分からない。

自分の膝を右手で撫でて左手でトントン叩く。
あれ、私は出来ます。
右手で三角を書きながら左手で四角を書くのも出来る。
でもあの曲は弾けないです勘弁してくれ。
つか、なんで弾けるのか分からない。
あれが弾ける人はなんか別の凄い色々なことも
出来るんじゃないかと思う。
2004.10.20

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