73 「・・・・・・」 「……ああ、リーマス……随分眠ったようだ……今は何時だ?」 「・・・・・・」 「ご機嫌は麗しくないようだな……そんな顔を見るのは久し振りだ……」 「・・・・・・」 「でも悪くない……このままベッドに引きずり込みたいくらい魅力的に、見えなくもない」 「・・・・・・」 「返事をしないぞ。もしやこのリーマスは俺の幻覚か?」 「・・・・・・」 「幻覚ならば、裸で出てくるくらいの気遣いがあってもいいようなものを。まったく詰まらない幻覚だ」 「―――――」 「笑った」 「ああ、笑ったとも。瀕死の状態でよくそんな冗談を……」 「瀕死?随分オーバーだな」 「おかえり現世へ。反論があるならそこで立ち上がって踊って見せてくれシリウス」 「今はダンスをする気分じゃない」 「では右手を挙げて私の髪に触れるだけでもいい。それが出来るかい?」 「髪だけ?」 「腰でも服の下でも好きなところを。触れるものならね」 「夜まで待てないのか。随分と情熱的だ」 「シリウス、私は怒っているんだ」 「……知っている。不注意だった」 「違う。君は、私を、庇った」 「勘違いだ」 「いいや。咄嗟に背に庇った」 「そんなことはしていない。リーマス」 「真実がどうなのかは、君も私もよく知っている。この話はここまでだ。私の怒りをここでぶちまけるつもりはないし、この先この話をするつもりもない。何故なら君は病人だし、君が目を覚ました事が心底嬉しいからだ」 「・・・・・・」 「ただ、私は怒っているし、2度目は許さないという事を覚えておいてほしい」 「リーマス」 「分かったね?」 「……分かった」 「……あの時に腐敗の呪文に掛かった他の3名は亡くなった」 「……そうか」 「私が君を見捨てて、彼等のうち誰かの手足を斬っていれば1人は助けられただろう」 「リーマス」 「君は私にその選択を……いや、これは八つ当たりだね。忘れてくれ」 「リーマス、お前の考えは違う。お前は3名を見捨てたのではなく、俺を助けたんだ」 「4人を助けている時間はなかった。何度やり直す機会を与えられても私は君を助けるだろう。君がそんな顔をする必要はないんだよ、シリウス」 「違う。お前がそんな顔をする必要こそないんだ。それは違う……うまく言えないが……」 「いや、平気だから。君が落ち着いてくれ」 「腕が上がらない……抱きしめることが出来ない……」 「こんな場所で何て不穏なことを言うんだ、この病人。動けなくて幸いだよ」 「お前がそういう顔をしているのが嫌なんだ」 「私には違いがよく分からないし、たぶん誰にも分からないさ。シリウス、静かに。安静に」 「……はい教授」 「随分と素直だ」 「俺はもうお前には逆らわないと決めたんだ」 「?……ああ、鉈で斬られた時に?」 「そう」 「そうだね。今度私を怒らせたら、鉈を持って暴れるかもしれないね」 「ああ、どうかそれだけは許してください教授」 「うん。君がすぐに覚悟して目を閉じてくれたから上手に切り落とせた。あれでも手は震えていたんだけどね」 「見事な思い切りの良さでした教授。恋人でなければ交際を申し込んでいた」 「そういう趣味が?」 「ああ。知らなかったのか」 「冗談はいいけど、しばらく眠ってくれ。私は着替えてくるから」 「血まみれだ」 「君の血だよ」 「ところで他の人間はどうしたんだ?」 「別の部屋で治療を受けたり、大部屋で休んだりしているはずだけど。そういえば、どうして誰も様子を見に来ないんだろう」 「恋人同士を2人っきりにしておくというのは、全世界共通の風習だろうか?」 「譫言か?この病人。ここには中年男性2人を恋人同士と考えるような空想癖のある人間はいないよ」 「キスを。リーマス」 「シリウス、馬鹿を言わずに」 「リーマス、俺は手足が動かせないんだ」 「ドアが開いたらどうするんだ」 「ウィンクでもするさ」 「そんな犬みたいな目で見るな」 「ひどいな……犬の姿で鳴いたら言うことを聞いてくれるのか?」 「止してくれ!4本足の動かない状態の犬なんて!君は鬼か!」 「……いや、両方俺なんだが……」 「この前に私が怪我をしたとき、君は酷く怒ってしばらく口もきいてくれなかったじゃないか」 「……悪かった。あやまる」 「泣いて怒っていた癖に」 「それでも言われるままに手を握りしめただろう」 「泣きながら睨んでいた」 「……お前だって今まで泣いていたくせに」 「何か?」 「なんでもない。さあ、リーマス、俺はちゃんと生きているし暖かい。キスをするとそれがもっと良く分かると思うが?」 「……ああもう、分かったから。このまま夜中まで続きそうだ」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「……病人も悪くないな」 「一生そうしていたいなら、協力する」 「嘘です教授」 「おやすみブラック君」 「おやすみなさい」 職場恋愛ものみたいになってきた……? (いや、そうでもない?) 2004.03.10 BACK |