71 昔からシリウス・ブラックという男は、良いものは手放しで褒め、悪いものは容赦なく貶した。 気に入らないものの悪口を言う彼は眉根と鼻の頭に皺を寄せ、祖国の敵を攻撃する勢いで口汚い罵りの言葉を並べたが、その代わり自分が価値を認めたものは全身全霊を込め持てる語彙のすべてを使って賞賛した。 それは今も変わらない。 彼は食事中などに時折音楽や芝居や文学の話をする。古の大魔法使いや、現役で活躍中の有名人についても。 駆使される優れた言語センスと、きらきらと輝く瞳を鑑賞しながら、ルーピンは頷く。「これは凄いんだぜ本当!リーマスお前も読んでみろったら!」と大声を上げる少年のシリウスの姿が鮮明に記憶から蘇る。 しかし音楽や芝居や文学の、まったくその続きの話のようにシリウスはルーピンの身体を褒めたりする。その肌や声を。やはり絶妙の言語センスを駆使して。 ルーピンはその度、口の中で咀嚼中のものを友人の顔に噴霧してしまいそうになるのを辛うじて堪える。そして胸を撫で下ろすのだった。 食事中に、向かいに座っている人が 突然自分の最中の声を褒め始めたら さぞや消化に悪いだろうと思います。 いくら悪気がなくてもさ。 ワインの瓶で一発殴っておいたほうが いいんじゃないでしょうか先生……。 2004/03/01 BACK |