58 時折、彼は遠い場所へ来て一人で眠る事がある。 異国の夜空は星の大きさも光り方も何もかもが違う。傍らに友人はいない。 適当にしつらえた固い寝床に横たわって瞼を閉じる。そういう夜のルーピンは、けれどいつもと同じ時刻、いつもと変わらない様子で毛布にくるまって眠りにつくのだが、意識が現実世界を離れる前の数秒間、友人の姿を思い浮かべることがこれまでに一度もなかった訳ではなかった。 しかしそんな時、必ず彼は煩悶する事になる。 なんとなればシリウスの顔を。大切な友人の顔を、ろくに思い出せないのだ。 元々シリウスの造作は「簡素」という言葉からは遠いところにある。特に眼窩の形や睫毛の配置具合などは「見えればいいだけのものに、よくまあここまで」と向かい合わせになるたび感心せずにはいられないくらいに。所詮ルーピンの頼りない記憶力には荷がかちすぎた。 同居して月日もかなり経つシリウスの顔を思い出せないことが露見したら、さぞや面倒な事になるに違いないと、ルーピンは目を閉じたまま努力をする。 くせのない髪の手ざわりだとか、触れられるとぎょっとするくらい熱い手のひらであるとか、高さがある故にそこだけ冷たい鼻梁だとか、そういったものをルーピンは思い出す。そして、いつもこうやって考え事をしていると、10分と経たぬうちに何かちょっかいを掛けてくる彼の腕がないという事実も。あの腕が側にないということはつまりはシリウスが側にいないということである。 自分がいま1人でいるのだという事にはじめて気付いてルーピンは 「安眠妨害だぞ……パッドフット」 と呟いて静かに眠りにつくのだった。 たぶん似顔絵とか書いたら シリウスさんを絶望させるようなものを 描くと思う。先生は。 2003/11/20 BACK |