50 「久しぶりに蝶に触った」 眠ったと思っていた傍らのシリウスが口を開いたのでルーピンは少し驚いた。 もう休んだほうがいいよ、と言う代わりに彼の髪を撫でようとしたのだが、見当違いの方向だったのか手は枕に触れた。何しろ完全な闇の中である。 「バスルームにいたのを窓から外へ逃がしたんだ」 シリウスの手は迷う様子もなくルーピンの髪に触れた。先を越されたのでルーピンは大人しく手を引っ込める。 「昔の記憶にある蝶の感触と、実際に触った感じは随分と違ってびっくりした。温度がなくて、柔らかくて、軽くて、乾いていて……お前に似ていると思った。肌触りが」 枕がかさかさと鳴って、ルーピンの前髪と額に何かが触れた。おそらくは唇だろう。 「そうそう、こんな感じだ」 ルーピンは友人が何を言わんとしているのかを暫し考えた。そして驚愕のあまりすっかり目が覚めてしまった。 「自分が何を言っているか分かっているのかい?蝶だって?私が?」 「どうして。何かいけなかったか?」 いかにも無邪気そうにそう言いながら、しかしシリウスの手は裸の胸から腹へと下りてくる。ルーピンは溜息をついた。 「……これは今の話とつながるんだろうか?ミスター・ブラック」 「もちろんだとも」 彼の重みが胸の上に戻ってきて、ルーピンは諦めてその背に腕を回す。 「だって蝶を触っていると、羽根をむしりたくなるだろう」 闇の中、小さく笑い声がした。 ものすごく久し振りに大きな蝶々の羽根に触ったら 記憶していたものと感触が違ってびっくりした。 (あ、私の話です) 温度がなくて、柔らかくて、軽くて、乾いていて 弱々しくて、ビロードのおもちゃみたいだった。 で、ちょっとだけ嗜虐心を煽られる。 ルーピン先生の手触りだこれは!!と思った。 夜の夜中に蝶々で、30男を連想するってどうよ。 なにかねえ、肌とか触るとタルカムパウダー まぶしまくったっぽいというかねハアハア! 関係ないですがモルフォ蝶の青を人工的に 作り出すことに成功したそうです。 「モルフォ・ブルーのドレス」とかいう言葉(いま捏造)が モード界で飛び交うのはいつ頃の話でしょう。 2003/10/10 BACK |