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 街に移り住んでから、シリウス「と」日光浴へ出掛けるのは容易ではなくなった。(シリウス「の」日光浴などとルーピンがうっかり言おうものなら、彼は梃子でも家から動かなくなってしまうので細心の注意が必要だった)リードがついていないことに悲鳴を上げられ、エチケット袋を持っていないぞと舌打ちをされたりもした。それに関しては親切なご婦人がルーピンに教えてくれるまで、彼等はなぜ自分達が非難の目で見られるかの理由についてちっとも思い当たらなかったのである。「土がないから土に還らないんだねえ」としみじみ目を丸くしてルーピンは呟き、それを自分に対しての発言であると思った婦人に「失礼ですがどちらから出ていらっしゃったの?」と質問されたりもした。
 しかしそれが原因で言い争いをするとは、2人とも夢にも思わなかった。

「まさかその袋を持って出るつもりかリーマス」
 ある日シリウスは散歩に出かけようとして、友人の右の手に握られている物に目を丸くした。
「何か不満でも?」
 ルーピンは澄ましていたが、確かにそれは犬が排便をした後で始末をする為のものだった。
「まるで俺が道路でフンをするみたいじゃないか!!」
「犬は道路でフンをする生き物だよ」
「俺はしない!!」
「私はそのことをよく知っている。けれどシリウス、道行く人は誰も私の連れている犬が実は人間であると知らないんだ」
「そのあたりの有象無象など気にするな。これは俺のプライドの問題だ」
「犬は良識を問われないが、飼い主は問われる」
「お前は俺の飼い主か?」
「外見的に見ると、そうなるね。少なくとも逆だと考える人は少ないだろう」
「なら離れて歩くといい」
「君は3秒で保健所行きだよ。何なら首から『この犬はフンをしません』とプレートでも下げるかいシリウス」
「人権がこの世にある限り、首に『フン云々』書かれた札など下げない」
「・・・・・・・」

 犬のフンが原因で喧嘩をする中年男2人というのも珍しいのではないかと、ルーピンはこっそり溜息をついた。結局最終的には「一見犬の後始末をする袋にも見えるが、そうではない普通の鞄にも見える小物入れ」をルーピンが持ち歩くことで双方は折り合った。

 そうしてルーピンはシリウス「と」日光浴に出掛ける。
 道路はアスファルトで建物はコンクリート、車はぶんぶん走っている。環境は随分と違うが、呑気に歩く2人の様子は、これまでとあまり変わらないのだった。


家の近所にシリウスさん(単に黒い犬)
が3にんもいます。すれ違うたびドキドキする。
2003/06/17

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