141 この世の終わりかというくらいに恥ずかしい話をしよう。 我が友人シリウス・ブラックからは果物の匂いがする。それは彼が南国の動物よろしく常にフルーツを食べているというような意味ではい。微かな、涼しくて甘い匂い。彼の体臭がそうなのだ。私は詳しくないが香水の匂いでもないらしい。どちらかといえば彼が愛用している香水の香りよりは、何もつけていない時のシリウスの匂いのほうが好ましいように私は思う。本人に言ったことはないけれど。 その匂いは、彼が何かに熱中している時や笑っている時、憤っているときに若干強くなる。そして彼が悩んでいる時、無気力になっている時、恐怖している時などは嗅ぎ取れないほど弱まる。そういう理由もあって、私はあの香りが好きになった。 闇の中で囁き抱き合いながら、私は彼の耳元に顔を寄せ深呼吸をする。そして「ブラック氏の気分は上々のようだ。大変結構」とこっそり確認し、少し笑う。自分による自分の為の笑いを習慣とする私にすっかり慣れてしまったシリウスは、「楽しそうですね教授」と矢張り笑顔になってキスをする。 ……何の話だったか。そう、恥ずかしい話だ。 そういう経緯により、朝の私からは例の果実の匂いがしている場合がある。もはや背後にシリウスが立っているとしか思えないくらい、くっきりと移っている香りに、朝食を摂ったあとで面倒だがバスルームを使おうと私は考えながら寝室を出る。 そんな時、廊下の向こう側にハリーの姿を見つけると私の心臓は跳ね上がる。ハリーのために空けてある寝室。彼はそこに早朝訪れ、朝食を私達と共にする事が時折ある。本来ならば私達は歩み寄って挨拶をし、階下へ降りるのが常だ。 しかし私は決闘クラブよろしく、向かい合ったハリーに忘却の魔法を掛けたくなる。あるいは大声を上げながら玄関へ走り、そのまま世界の果てまで走るのでもいい。ああ、この匂い。シリウスにぴったり似合うとハリーも言っていた。気付かぬ訳がない。 恥ずかしさの余り遠のく意識で、私は果実の木の苗を1000本程購入し家の周りに植樹する計画の検討を始める。そんな私に、ハリーは一片の曇りもない表情で朝の挨拶をする。 ハリーも若い頃は先生の匂いに気付いて、 ついうっかり赤面して、先生も動揺して、 ハリーは顔に出ちゃった事を恥じて、 先生はハリーを恥じさせてしまった事を恥じて(以下永久連鎖) 朝食の席で どもりまくって シリウスに「2人ともどうしたんだ?」 と言われた日もあったと思います。 (先生は「恥ずかしいから忘れよう!」と思って 見事忘れてますが) でも今では少年は大人になったので 見事なスーパースルーが出来るのです! 2007.03.02 BACK |