140 彼等は、ごく普通の読書家がそうするように、暇を見つけては色々な種類の本を読んだ。冒険小説、歴史小説、空想小説、私小説、恐怖小説、恋愛小説、不条理小説(そして時には女囚や女教師の小説なども)。マグル達の出版している単行本も区別なく愛読する彼等は、中でも特にミステリを好んだ。 彼らがその物騒な大衆文学に出会ったのは学生時代の頃に遡る。ドイル、ヴァン=ダイン、クリスティ、クイーン、カー。「魔法という技術を持たないマグル達は行動に恐ろしく制限があり、その制限がパズルとなって緻密な物語を作るんだよ」と熱く語った少年はヴァンスに耽溺していた。シリウスはホームズに。ルーピンはミス・マープル。 少年は大人になり、シリウスとルーピンは一緒に暮らしている。彼等はごく普通の読書家同士が同居した場合そうするように、出来のよかった本を時折交換し合ったりする。そして彼等はテレビという物を購入して数年後、彼等の好きなミステリが映像化されて放映している事に遅まきながら気付いた。それらの中には、既読の物もそうでない物もあった。お気に入りの作家が原作で、そしてそれが未読のものである場合などは、当然2人はいそいそと並んで椅子に腰掛けるのであるが、鑑賞中に何かと問題がない訳ではなかった。 ルーピンが推理小説を好むのは、それは何より安心できるという理由からだった。ミステリの結末では必ず物事があるべき所に収まり、最後にとても親切な人が出てきて全ての出来事について説明をしてくれる。読後に訝しんだり、怒ったりする必要は全く無い。事情があるにしろないにしろ犯人は退場し、怯えていた令嬢は元の生活に戻る。彼は不必要に疲れることのない物語が好きだった。 しかしルーピンの同居人であるシリウスは違った。 番組の中で探偵が、頭を掻きむしったり唇を撫でたり椅子の上で丸くなったりして推理を始める時、ルーピンの隣にいるシリウスも真剣に推理を始める。美しい鳥の剥製のようになって彼はしばらく動かなくなる。 「なるほど、ああそうか!」 鳥の剥製が陽気な友人に戻るために要する時間は数分。そうして今度は突然饒舌になり彼は解説を始める。 「たぶんもうすぐ大広間の奥にある花瓶が割れる。それからこの召使い、こいつは目が悪いはずだ。あと、雨が降る。降らないといけない」 番組の中の探偵が事件についての説明をし、そして室内に突如出現したもう1人の探偵(ルーピンの横に座っている美貌の探偵)がさらに早口で説明をする。名探偵2人が同時に喋るので、ルーピンは目を白黒させながら、なんとか2人の話を聞き取ろうとする。 「おっと、勿論結末を話してしまうような下品な事はしないから安心するといいリーマス」 彼はそう言って朗らかに笑うと、気が済んだのか台所へ湯など沸かしに行ってしまう。ルーピンは一つため息をつくと座りなおして番組に集中する。名探偵シリウスの予言は9割以上的中するので、ルーピンは彼の話した内容を頭の中から消去するようにしていた。 テレビの中の名探偵はシリウスが解決してしまった事件をまだ推理している。再び唯一無二の探偵になった彼は、心なしか少し淋しそうに見えるのだった。 うわ、うざい!(笑) でも、うざいながらも、 ちょっとシリウスと暮らしてみるのも 楽しいような気がしました。 2007.02.21 BACK |