135 「いつも君は私がこの手の話をするたびに機嫌を損ねて横を向いてしまうが、今日こそは我慢して聞いてほしい。 しゃれにならない雰囲気で言うのは気詰まりだから、今のうちがいいんだ。この年になるまで2人で仲良く暮らしてこられて、本当に幸せだったと思っている。君も私も、特に大きな病気をせず……ああ、私は古い持病を除いてだけれど……これまでやってきた。けれどさすがにこの生活は永久に続くものではない。 ほら、立ち上がらない。座りなさいシリウス。どう考えても私のほうが君よりも先にいなくなる。これは確実だ。けど仕方ない。この持病が寿命を縮めるというのはデータで証明されているからね。 私は議論したいんじゃないんだ、待ってくれシリウス。これは私が君に言いたい事を言っているんだ。どうか最後まで聞いてくれないだろうか我が友。どうかどうか、頼む。……うん、ありがとう。そっぽを向かないでいてくれると尚嬉しいけど、まあそれはいいよ。 これは心配だから言っておきたい、そういう種類の話なんだけれど、私がいなくなっても君は慌てる必要はない。―――ああ、そうだ。私は君と共にいるとか、君の中に生きるとか、そういう慣用句の話をしようとしている。静かに。先回りをしないでくれ。確かにそれらは使い古された慣用句だけれど……だが真理でもある。私が言いたいのは、死んだ私が霊体となって君の周りでふわふわ浮いているとかそういうファンタスティックな話ではない。もっと実際的な事だ。 例えば私は夕焼けの色を見ると次の日の天気をおおまかに言い当てられるが、今では君も同様のことが出来る。そうだろう?植物の種の蒔き時を君は知っているし、害虫の駆除方法もそうだ。食べられる茸とそうでない茸を見分けられるし、痛んだ野菜の調理の仕方も知っている。それは私が教えたからだ。 いまでは君は机の上に足を上げない。何故か?私が怒るからだ。食後の酒を3杯以上飲まないのもそうだ。昔に比べたら君は随分我慢強くなった。人の話を聞くようになった。何十年と同じ小言を聞かされれば、普通そうなるね。 そして夏の空に稲光が走って、君が振り返った時に私が何というか、君はもう知っている。夏の夜にふと秋の温度をした風が吹いた時、私がどんな顔をするかも。 世の中の不正について、政治について、恋愛について、友情について、マグルに対して、私がどんな意見を持っているかを君はよく分かっている。 君は君の内に私を持っている。もちろん君以外の人々、ハリーや彼の親友達、かつての仲間達の内にも少しづつ私の知識や気持ちは分かたれている。 けれど大部分は君の中にある。シリウス。だから私はこの世から消え去るという気がしない。少しも。私がいなくなったら……いや、それはきっと随分先の話だろうけど、君は少し悲しんで、でもそれ以降も変わらず人生を楽しんでほしい。若い人達に助言をして、新しい友人を作って、そして機会があれば新しい恋もしてほしい。君の中の私もきっとその人に恋をしているから。君が幸福になればなるほど、私も幸福になるんだ。君の中の私が。 今日私のした話を忘れずに、いつか思い出してほしい。もの覚えのいい君の事だから心配はないだろうけど。さあ、もう立ち上がってもいいよ。我慢をさせて済まなかったね。 もう一つだけ我侭を言うけど、抱きしめても構わないかな?シリウス」 先生は本当の本当にシリウスを愛しているという話。 でもシリウスは一応我慢して聞いているけど 「なんでそんな話をするんだバカ!おまえなんかきらいだ!」 みたいなそういう気持ちだと思う。 それは予防接種をされるときの犬の 「ご主人様はどうしてこんな酷いことをするワン!?(>_<)」 というのと同じだと思います。 お前の為だっつの。 先生の寿命に関しては、 確か生物の細胞が分裂する回数は決まっているはずだから 1ヶ月に1度、全細胞が強制的に再生させられる先生の寿命は 短くなっちゃうのかな……と思って書きました。 2006.09.04 |