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 双方のちょっとした気まぐれにより、その日の午後はピアノのレッスンに充てられる事になった。彼らの家にはアンティークの小さなピアノがある。それは何年か前の2人の「結婚記念日」にハリーが贈ったものだ。

「簡単な曲なら、人間であれば誰でも弾ける。ピアノは弾きやすさで言えば類を見ない楽器だからな」
 とシリウスは請合った。
 彼はまずルーピンを椅子に座らせ、彼の後ろに立った。そして左右から手を伸ばし子供用の練習曲を弾いて見せた。次に左手だけのフレーズを弾き、次に右手だけのフレーズを弾いた。そして「今のをそのまま」と、当たり前のように無茶な要求をする。
 ルーピンは勿論首を振った。
 シリウスという男性は人にものを教えるのには向いていない。ピアノに限らずどのジャンルでもそうだ。彼は習得の段階で行き詰るという経験がないので、習得するためのノウハウを一切持たない。彼にとって世界の全ては「するべき事」と「する必要のない事」のどちらかなのだ。
 彼は如何にも不思議そうに、「何故出来ない?簡単だ」と言って、ルーピンの手を鍵盤の上に載せ、その人差し指や中指ごと鍵盤を弾いた(彼は指が長いので、ルーピンの手を上から包むようにしても、余裕で鍵盤を押さえることが出来る)。そのうちに短い鞭を持ち出してレッスンをするのではないかというくらい、シリウスのその様子には容赦や妥協がなかった。彼は肘の角度や指の伸ばし方を厳しく指導する。ルーピンは、噂には聞くが実物には未だお目にかかったことのない「こわいピアノのせんせい」とはこんな風なのだろうかと、こっそり溜息をついた。
 それでもワンフレーズほどを覚えたルーピンが恐る恐る弾いてみるのだが、しかし右手を動かせば左手が止まり、左手が動けば右手が止まった。
 シリウスが吹き出したのでルーピンの髪が揺れる。
「失礼だな」
「すまん。……だけどお前……お前の右手と左手はどうなっているんだ?」
「いや、これが普通だよ。君のほうが変なんだ」
「変なのはお前だ」
「誰もが君みたいに器用なわけではないよシリウス。でないと世界の人全員が音楽家になってしまう」
 ルーピンは背後の友人に背を押し付けるようにして抗議する。
「色仕掛けには乗らないぞ。なんと言おうと、今日はこの曲をマスターするまでは俺の腕の間から出られないと思え」
 笑ったシリウスの胸の振動が背に伝わってきて、ルーピンはふざけてシリウスの両腕を退けようとする。シリウスはルーピンを背後から抱きしめた。彼等は笑い声をあげた。

 その時かすかな足音がした。

 気のせいかとも思われたが、彼等は振り返った。
 階段を見上げた2人の見たものは、おそらく2階の自室の暖炉から現れたのであろうハリーが、おそらく階段を下りて居間に向かう最中、おそらく2人の非常に仲睦まじい様子を目撃し、おそらく何事か勘違いしたのち気を利かして自室に戻った、彼等の視界から消える一瞬の、その洋服の端だった。
 そしておそらくハリーは慌てて暖炉の中に消えるに違いない。
「誤解だハリー!」
 2人は同時にそう叫び、勢い良く立ち上がる為に或いは踵を返すために鍵盤に手を付いた。2組の手は見事に呼吸の合ったタイミングで不協和音を奏でた。ピアノは、グシャーという一種形容し難い音を立てた。








バカなもの書いてごめんなさい…。
バカの書くことだと思って暖かく許してください…。
でも現実、目の前でこんなことしているカップルがいたら
銃 殺 す る け ど ね。

エレクトーンをやっている人は、左右の手に加えて
足でベース部分を演奏することができます。
私はさすがに足で何かを弾くと手は止まるなあ…。

2005/10/14


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