とある青年の話 いつ見ても、そぐわない外見をした青年だ。男はそう思っていた。 大学の助手でも勤めながら研究を続けているのが如何にも似合いそうな。伸ばした髪と、曖昧な表情をした青年からその年齢は窺えない。笑うと目元に皺が出来るので、ますますそれが不明瞭になった。 男は、青年への情報受渡しを役目としていた。 最初に青年を紹介されたときは、偉大なダンブルドアともあろう者が、どうしてすぐに命を落としそうな頼りない人物にこんな危険な調査をさせるのかと訝しく思ったものだ。仕事の詳細を告げて別れるときに、彼の姿を見るのはこれで最後だという気が何度もした。つい最近まで。 しかし彼は生きて帰って来る。何人も失敗者や死者が出ている危険な場所から、それ相応の成果を携えて。それでいて彼は武勇伝を吹聴する訳でもなく、奢った様子を見せない。彼は何も語らない。何の為に危険に身をさらしているのかの理由も。 もう知り合って随分になるが、男はこのリーマス・ルーピンという青年が好きではなかった。いつも薄く微笑んでいる彼は、何を考えているのかさっぱり分からなかったからだ。 ある日指定した酒場へ行くと、ルーピンは見知らぬ青年を隣に座らせていた。黒い長い髪をした美しい人物。しかし様変わりしてはいたが、手配の死刑囚であることは明らかだった。ダンブルドアからそれとなく聞かされていなければ、男は大声を上げていただろう。 「当分は彼と行動を共にします。彼は私の友人シリウス・ブラック」 男は差し出された細い手を握り、死刑囚と握手をした。よろしくと小さく呟くと、ブラックは黒い瞳で頷く。彼の指は柔らかく、痩せ衰えた外見から想像されるのとは逆の環境で育ったのだという事が分かった。 「ではルーピン、場所はイタリアだ。詳細はこの地図に載っている」 男は死刑囚に対してどういう態度をとっていいものか測りかねて、いつも通りの事務口調で説明をした。 「名前は言えないが内通者が1人いる。水曜日に西側の3階、左から3番目の窓の鍵が開いているからそこから……メモをとらなくていいのか?」 ルーピンは数字の暗記がとことん苦手のようで、いつも言葉を書きとめていた。残るものに記されるのは不都合なのだと何度言っても彼はそれを改めなかったのだが、いま青年は涼しい顔で両手を卓上で組み合わせている。 「ああ、もうメモはとらなくていいんです」 どうぞ先を、と言われて男は頷く。 「この前の教会のように人数は多くはない。君もあんな風に全身を何箇所も骨折しないで済みそうだ」 そこでルーピンの表情が変わった。笑みが消えて、瞬間、ぼんやりとしたような形容のし難いものに変わる。 「彼は骨折したのですか?」 じっと黙っていたブラックが口を開いた。容貌によく似合う落ち着いた声だった。 「訂正してください。折れたのは2ヶ所だ。それもすぐに治った」 「いつ?いつ彼はその怪我を?」 男は、立派に成人した2人の人間が、必死にとしか形容できない熱心さで互いに口を開くのを呆然と見守った。近所の子供を叱るときの調子が思わず出そうになって慌てて戒める。 「落ち着いてくれないか?怪我がどうしたと言うんだ。ミスター・ルーピンが怪我をしたのは5ヶ月前。それと君が骨折したのは確かに2ヶ所だったが、そのうち1ヶ所は背骨だった。発見が遅れていたら危なかったと随分絞られていただろう。御友人に話してないのか?」 またルーピンの視点が遠くを見るようなものに変わり、それから彼は軽く額を押さえた。笑顔ではなかった。これはどうやら青年が動揺しているときの表情らしいと男はようやく気付く。 「シリウス、話を聞いてくれるだろうか」 「今は仕事の打ち合わせをしている最中だろう?後で話そうリーマス。お互いに」 ブラックはといえば、これは初対面の男にもはっきりそれと知れる怒りが顔に刻まれている。その返事を聞いたルーピンは見ていて気の毒になるくらい顔色を悪くした。 ルーピンは相当に困っているらしかった。 怒っている友人を窺い、落ち着きを失ったルーピンは別人のようで、彼の笑顔がこんな風に崩れるとは実際目にしていなければ想像も出来なかっただろう。男はルーピンのその顔を好ましいと思っている自分を唐突に自覚した。いつもの、何を考えているか分からない笑顔よりは余程。 それからこの2人の青年は、ただの友人同士というよりは家族に近い間柄なのだろうと考える。そうすると会話全ての平仄が合うからだ。 男はいつも通りに仕事の内容を淡々と語り、彼の役目を終えると「喧嘩は程々にな」と注意して席を立った。 そして店を出て帰る道すがら、2人の青年の無事と幸運を何とはなしに祈った。 ポエムだったのですが中途半端な長さに……。 「敵から見たゲイカップル」をやりましたので 今回は「味方から見たゲイカップル」を。(わあー) 動揺すると遠い目になる人は偶にいますが どうしようもなく可愛いですよね。うん。 どの筋肉が伸びるのか知りませんが、 顔って相手によって随分緩みます。 それとおじさんは、彼等の年齢を 10歳近く読み間違えている。 (ほらそうでないとタイトルがさ…) 2003/06/11 BACK |