A sexy conversation


 
 唇より先に舌が触れ合った。食事をしているのかと身体が勘違いする程の濃厚なキス。肌の柔らかい箇所に指を滑らせると、相手の呼吸が一際大きくなった。眼は堅く閉じられ、唇の隙間から噛みしめられた歯が見える。快感を感じているのは表情を見れば分かる。演技かどうかの見分けくらいはついた。――――いくらシリウスでも。
「あのな。マグルの集合住宅じゃないんだから、そんなに静かにしていなくてもいいんじゃないのか?」
「…………何?ごめん、今何て言った?」
 突然話しかけられたリーマスの目の焦点が、部屋の中に戻ってくる。あまりに慌てた、子供っぽい表情をしているので一瞬シリウスは何でもないと答えてそれまでの作業を続けそうになったのだが、ぐっと踏みとどまる。
「ずいぶんと静かだ、と言った」
「……今日は日曜だから。それ以前にここは野中の一軒家だから……」
「違う!!お前だ!お前が静かだと言ったんだ!」
「私は確かに賑やかな方ではないけれど、でもどうして怒鳴るのかな?」
 どんどんずれて妙な方向へ行ってしまう彼との会話は、最早シリウスにとって慣れっこだった。だからこそ彼等はリーマスにムーニーの名を贈ったのだ。方向修正はお手の物である。
「『俺の時』とは大違いだな、と言いたいんだ。理解できたか?ダーリン」
 自分の言葉に、シリウスの脳裏に強烈な記憶が蘇ってくる。

 呼吸が。吸って吐いて、普段無意識に繰り返しているその手順が、与えられる刺激と果てのない接吻のせいで分からなくなってシリウスは闇の中でパニックを起こす。冗談ではなくこのまま死ぬのではないかと思う。空気が足りなくて苦しいのか、快楽のせいで苦しいのか、それすらも判然としないままシリウスがリーマスの背に縋り付いて名を呼ぶと、彼は全ての動きを止めて普段通りの声で優しく囁く。大丈夫、シリウス。さあ息をして。
 声を出す出さないという以前の問題で、翌朝にはシリウスの喉は涸れている。

 見つめ合っているとリーマスの目に徐々に得心の色が広がっていく。その、海が海岸線を浸食していくスピードと良い勝負の時間の長さを、シリウスは辛抱強く待った。
「ああ、分かった。そういう事か。……え!つまり君は私にもっと……その、騒げと言いたい、のかな?」
「そうだ。何か問題でも!?」
 噛みつくような勢いのシリウスに気圧されて、リーマスは心理的に後退する。
「……もしかしてずっと気にしていた?」
「不公平だとは思っていた」
「済まない……けど、私は……どちらかというと控えめな性分だから……」
「せめて名前くらいは呼んだっていいんじゃないか?」
「ええと、君の名前を?」
「最中に自分の名前を連呼するつもりか!!選挙にうって出るのか!!」
 リーマスは神妙な顔で耳を押さえた。そして同じベッドにいる時だけでいいから怒鳴るのをやめてほしいなあとコッソリ考えた。やかましいので。
「もちろん違うよ。うん、君の名前ね。我を忘れて呼ぶかもしれない……その内に」
 彼にしては稚拙な逃げ口上に、シリウスはとうとう起きあがって叫んだ。
「お前はいいさ!!上手いんだから!!才能があるんだからな!俺とは違って!」
 それだけ言ってしまうと、側にあった毛布に全身すっかりとくるまってしまう。ベッドの上に突如出現した巨大な蚕に、リーマスはしばらく言葉もなかった。
「……馬鹿な。こんな事に上手いも下手もあるもんか」
「あるに決まっているだろう!!!お前本当に男か!?」
 自分が男であるという事実に関して、最近においては自分よりシリウスのほうがより認識が深いのではないか?と思ったリーマスである。口には出さないが。
「勿論だよ。君も知っての通り。……あー、その件については、君に要因があるのではなくて私のせいじゃないかな。ほら、私は全体的に鈍いし、逆に君は敏感だ」
 全てにおいて頑強で大雑把そうでいながら、シリウスは感覚的に妙に繊細なところがあった。熱くて物が持てないと騒ぐのは大抵シリウスであるし、微妙な匂いや気温、湿度の変化に気付くのも、食べ物の質、出来不出来に気付くのも全てシリウスの役目だった。(というより、リーマスは腐った物を平気で口にするような所があり、この手の事に関しては比較にすらならなかった)
「私はこの病のせいで随分と皮膚を痛めたから、感覚が鈍重になっているんだよ……だから」 「悪いが……その路線も今は駄目だ」
「なんだ駄目か」
「何か言ったか?」
「いや何も」
 シリウスに掛布を奪われた形になったリーマスは、寝台に裸で横たわっている自分をグラビアのヌードモデルのようだと思った。無論彼女達とはでっぱりも風体も果ては性別までも違っていて、唯一の共通点はヌード、それだけなのではあるが。
「上手いとかそんな事を言われても、私は私と寝る訳にはいかないから比べようがないじゃないか……。それに君が怒る事じゃないだろう」
「……俺ばかり良い思いをしてる」
 笑い上戸というもう一つの病の発作が危うく出るところだったのを辛うじて堪えて、リーマスはまじめな顔を保った。
「そんな事はない。シリウス、どうか機嫌を直してくれないか?」
 おそらくこの辺りが頭だろうかという箇所をぽんぽんと叩いてみる。
「触るなスケベ。スケベが伝染る」
 タイミングが悪く、不意を突かれたリーマスは今度こそシリウスの上に突っ伏して笑った。
「……君、今日は学生時代の自分の真似をしているのかい?すごく……すごく可愛いんだけど……駄目だ、あはははははははは」
 笑いながらも、シリウスの怒りがどんどん増しているのを感じて脈拍が速くなったが、それでも発作は止まらなかった。部屋の中にリーマスの笑い声だけがしばらく響いて、何とはなしに彼は寂しくなる。そして、肌寒くもなった。
「もし今ここに強盗が入ってきて、二人で揃ってこのままの状態で殺されてしまったら、マグルの警察は私達が何をしていたかきっと推理できないと思うよ」
 なにせ片側の男性は毛布ですっぽりくるまり、もう片側の男性は全裸で、二人で話をしていたとしか考えられない状況である。まさか男2人、裸で喧嘩をしていたとは思いつくまい。
「だからせめて……何をしていたか分かるように、その中に入れてくれないか?」
 言うそばから後悔する類の台詞だったが、額を押さえて彼は耐えた。毛布の山から少しばかり逡巡する気配が漂ってくる。
「その……君の言った事については、努力、するから。」
 努力って何だろう、と自分の言葉に対して激しい疑問と羞恥を抱きながら、リーマスは重ねて言った。
 少しの間が空いて、毛布の端がちらりと上がる。
 リーマスがにっこりと笑ってその中へ身を滑り込ませたので、寝台の上に人の姿はなくなった。
 あるのは毛布の山ばかり。その中からしばらく小さな笑い声が響いて、やがて静かになった。
 


ガハー。(何か吐いているらしい)
シリウスは犬なのでよく鳴きます(笑)
彼等の選挙の形態もマグルと同じかなぁ?

先生は子供の頃に大分皮膚を痛めたので
神経終末が駄目になっていると思う。
触られてもあまり感じないというか。
あとシリウスの体はとても受に向いていると思う。
(あとがきで問題発言するのはやめましょう)



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