誕生日とプレゼント17
レギュラス・ブラックからそれが届いたのは1週間ほど前のことだった。 配達人から荷を受け取り開封したシリウスは、これ以上ないくらい怪訝な顔をしてルーピンの部屋に現れた。 彼の両手に抱えられた小さな黒いものを見たルーピンは、彼にしては珍しく動揺し、友人の周りをぐるぐる歩き回った。 目を吊り上げ、牙をむき出して威嚇している黒いぬいぐるみ。それは明らかにパッドフットだったので。 ホグワーツの少女と少年の友情の物語は、レギュラスが主催する劇団の看板作品だった。現在その3度目の公演が行われているのだが、マグルの興行に倣って、黒髪の少女が変身するアニメーガスのぬいぐるみを売り出したところ大人気商品となったとのことだった。 「あいつがマグルの商売を真似る日が来るとはな。でもどうしてうちに送ってくるんだ」 シリウスは首をかしげた。ルーピンが思うに「勝手にモデルにしたことを許してほしい。訴えないでほしい」というメッセージの線が濃厚だったが、シリウスはまったく気にしていない様子なので黙っていた。 シリウスが戸棚にしまおうとしたぬいぐるみをソファに座らせ、名前まで決めたのはルーピンだった。(名前はリトルパッドフット。愛称リトルに決定した) 彼は時折ぬいぐるみに声まで掛けていたので、「ベッドに持って行って添い 寝したらどうなんだ」とシリウスがからかうと、「よく知らない家で中年の男のベッドに寝かせられたら怖いだろう」とルーピンは真顔で返事をした。 そしてルーピンの誕生日の日、「ちょっとした頼みがあるんだけど……」と切り出されたシリウスは、恋人の望みならばそれがどんな内容であれ叶えようと意気込んだが、肝心の彼の望みが「黒犬の姿になって、隣に座ってほしい」というものだったので、眉間にしわを寄せた。 ソファに座ったルーピンは、左手に黒いぬいぐるみのリトルを、右手に大きな黒犬のパッドフットを抱え、しばらく無言でいた。 シリウスは「これになんの意味がある……」と心底疑問に思ったが、口蓋の問題で言語が喋れなかったので黙っていた。 「……百人のお妃さまがいた大昔の外国の王様ですら、今の私ほどは幸せではないと思う。倫理的に問題がある発言だけど」 たっぷり5分は沈黙していたルーピンがしみじみつぶやいたセリフがそれだった。 シリウスは潤んだ犬の目でまじまじと恋人の顔を眺めた。 昔からこの親友は理解不能なことを時々言ったが、シリウスはそのたびに口を開けて彼を見るしかなかった。 「私の人生の幸せな瞬間、ベスト10に入るかもしれない」 不公平がないようにパッドフットとリトルを同じだけ撫でながら、ルーピンは首を振った。 「いや、それは無理だな。思い返すとシリウス、君のおかげで私の人生の幸せな瞬間、忘れられない体験はずいぶん増えたからね」 ルーピンはそう言うとぬいぐるみの背を撫でリトルに微笑んだ。そして「間違えた」と言ってパッドフットの頭にをキスをした。 シリウスは「今のは冗談で間違えたのか?それとも本当に間違えたのか?俺とその人形を?」と犬にできる最大限で難しい表情をしていた。 ワーナースタジオツアーで買ったパッドフットぬいぐるみを どうしてもルーピン先生にプレゼントしたくなり 架空世界に向かって「ヤーーー!」って投げました。 先生お誕生日おめでとうね。 2025.03.10 |