誕生日とプレゼント10











 部屋の中はめちゃくちゃに荒れていた。

 いつもこの家の居間は読みかけの本や熱いお茶の入ったポット、ちょっとした食べ物、花、新聞や手紙や絵葉書、記事の切り抜きにメモ、クロスワードパズル等が置かれていて適度に雑然としてはいたが、それは暖かい生活感を感じさせるもので決してだらしない印象はなかった。しかし現在、カーテンはフックから外れ、床に落ちているばかりか所々大きく裂けているし、花瓶は倒れ、書籍は床に点在している。天井の照明は欠け、ソファの肘掛は破損し、すべての家具が微妙に定位置からずれ、テーブルは引っくり返っていた。見間違いでなければ窓ガラスには罅が入っている。何より恐ろしいのはこの家の住人シリウス・ブラックとリーマス・ルーピンがソファにぐったりと体を預けて座っており、虚ろな目をしているという点だった。彼等の意気消沈した表情と顔色は、まるで破産した男のように見える。
 どの夫婦、どのカップルにも訪れるという関係の危機が、今になって彼等を急襲したのだろうか?そして想像が難しい事ながらシリウスか、又は更に想像が難しいがルーピンが、手当たり次第に本を投げたり家具を投げたりしたのだろうか?用があってこの家を訪問したハリー・ポッターは、予期せぬ事態にさすがに動揺して色々と想像をめぐらせた。


 しかし恐る恐る2人に声をかけて問い質してみたところ、返ってきたのは予想外の答えだった。
 どうやら2人は、知人からの頼みで人狼の少年を2週間預かったらしい。
 それは社会的に成功している人狼、もしくは周囲のサポートを充分に受け幸福に暮らしている人狼の生活を同じ病の子供に見せて将来を定めるヒントにするというボランティア活動なのだそうだ。
「その子供がギャングのように暴れ回ったとか?」
 ハリーがそう尋ねると、2人は大慌てで否定した。曰く「いや、まさか!あの子はとても物静かで!」「そう、物を壊すなんて到底できない子だよ」「椅子から立ち上がるのにも許可を求めてた!」





 その少年を駅まで迎えに行って初めて彼と対面したときに、シリウスとルーピンは大変動揺し、それを態度に表さないようにするのに苦心した。何故ならその金の髪に青い目をした少年は昔のリーマス・ルーピンにそっくりだったから。といっても姿形の話ではない。目鼻立ちで言えば、その少年は子供時代のルーピンよりも随分と整った顔をしていた。しかし普段からあまり表情を動かさない者特有の、筋肉に乏しい頬や額は、奇妙に過去の彼と似通って見えた。
 そして少年は痛々しいほど大人の一挙手一動に気を巡らせていた。どんな兆候も漏らすまい、2人の機嫌を損ねまいとする緊張はシリウスとルーピンにも伝わって、彼等を居た堪れない気分にさせた。旅は快適だったか、不調はないかと尋ねられ少年は笑顔で受け答えをしたが、視線は神経質にシリウスとルーピンの間を往復していた。
 少年の旅行鞄を持ってやりながら、ルーピンは昔のことを考えていた。この子が同じかは分からないが、当時の自分は同情や親切心を示す人々に何度か落胆させられ、他人に期待を寄せるのを一切やめていた、と。ルーピンの子供時代は今ほどには差別を白眼視する雰囲気はなかった。
 他人には期待をしないし好意も持たない。何が起こっても当然だと考えよう、という決意が一番強かった時期にルーピンはホグワーツに入学した。
 シリウスも客人の少年を見て、当時のルーピンを思い出していた。彼と友達になるのがどんなに難しいか、シリウスは身をもって知っていた。怒らせようとしても笑わせようとしても、返ってくるのは曖昧な笑顔ばかりだった。この少年が同じとは限らないが、果たして彼と仲良くなれるだろうか?なにしろ自分には当時のようなエネルギーと無鉄砲さがもうない。と、シリウスは考える。

 家に到着した少年は、まるで用心深い小動物のようにあてがわれた客室から出てこなかった。
 2人は出来うる限り努力し、子供の好みそうな本を書架から薦めてみたり、春の野山へ散歩に誘ったり、マグルのアニメーションをテレビに映してみたりと奮闘したのだが、あまり効果はなかった。
 この家の中で一番の料理人の誉も高いシリウスが腕によりをかけて朝食昼食夕食に3時のおやつまで担当したのだが、残念ながらそれにも今のところ「おいしいです」というごく儀礼的な言葉しか引きだせてはいなかった。
 台所で奮闘するシリウスを手伝うルーピンは突然「物語に出てくる意地悪な継姉みたいだ」という分かりにくいコメントを述べた。シリウスがしばらく悩んだ末に意図を問うと「継姉は大抵王子様に気に入られようと一生懸命アプローチをかけている。今の我々みたいに」と彼は答える。
 言われてみれば確かに、少年の関心を買おうと台所で奮闘している自分達は王子の好意を得ようと頑張る女性めいていると言えなくもない。「でも物語の彼女たちはもっと根性があった」「確かに」シリウスの両手は塞がっていたので、彼は器用に首を伸ばしてルーピンのうなじにキスをした。「それに彼女たちはこういう関係でもなかった」「……うん、まあ」
 少年がやってくる前、彼等はそのことに関して何度か話し合いをしており、結局はルーピンの「人狼であるうえに同性愛者というのは、問題の難易度が高すぎはしないだろうか。それに君も知っての通り私はあまり人前でのスキンシップを好まないが、やってくる子供がそれを病気のせいだと考えては困るし、私も色々考えを巡らせすぎてしまって普通に振舞える気がしない」という息継ぎなしに一点を見据えたまま言い切った意見が押し勝った。
 そんな訳で彼等は、少年の前では同居している友人同士として振舞ったが、すれ違いざまに素早く相手の頬にキスをするだとか、台所で忙しく動き回っている人間の腰を軽く抱くであるとかいう行為は、やってみるとなかなか難しいのだった。
 膠着状態になるかと思われたホームステイの少年と2人の大人の関係だったが、状況を打破したのは矢張りシリウスだった。夜中に起きて水を飲みに来た少年と台所で鉢合わせした彼は、「ホットミルクを飲むか?」といったような、こういう場合大人の言いそうなことを言わなかった。その代り「内緒でアイスクリームを食べないか?」と彼は重々しく言った。
 「内緒で」「夜中に」「アイスクリーム」その魅力にはさすがの少年も抗えなかったようで、長い時間逡巡したのち彼は頷いた。
 月光の下で食べるアイスクリームが一番うまいという秘密をシリウスは少年に教えてやった。鋭く光るガラスの器と銀色のスプーンは、今教えてもらったばかりの秘密がまったくもって真理だと証明しているようだった。
 音をたてないようにこっそりと、無言のままにアイスクリームを食べ終えた彼等は、同じく静かに器を洗い、綺麗に拭き清めて証拠を隠滅し、各自の部屋に戻った。
 翌日ルーピンは減ったアイスクリームには全く気付かなかったが、シリウスと少年の雰囲気が変化した事は察した。「さすが当時の私と友達になっただけの事はあるね……」と素直に彼は友人を称賛した。「一緒に悪事を働くのが近道なんだ」とまんざらでもなさそうにシリウスは語った。
 今回はいざ知らず、当時の君たちは悪事が大好きな気持ちが99%くらいだったのは断言できる。とルーピンは思ったが黙っていた。
 そこからはシリウスの独壇場だった。少年の好みそうな怪談に、クリームを付け放題のホットケーキのタワー、色とりどりのフルーツのフリッター、オリジナルのミステリーのクイズ、マグルの精巧なプラモデル、家の中の各部屋を自分の領土としていく古代の王様の遊び、家の中での遭難ごっこ。少年はシリウスに夢中になり、無言で彼の後をついて歩いた。
 過去の自分がシリウスを信頼していく様子を再び見せられるような、妙な気恥ずかしさを覚えながら勿論ルーピンもその遊びに参加した。長い年月をずっと彼と遊んですごしたので、要領はよく心得ていた。遊びに架空の外敵が必要そうな段階に来るとそれを匂わせ、意外な出来事が起きると驚く役をこなした。シリウスがコントロールする遊びは意外性と危険に満ちているが、最後には必ずハッピーエンドで楽しく終わる。そこがジェームズとの違いだった。
 ルーピンが過去を思い出していると少年がふと小声で尋ねた。「あなたたちはホグワーツで出会ったんでしょう?」
 少年の方から何かを尋ねたのはこれが初めてだった。2人は大げさにならないようゆっくりと頷く。彼がぽつりぽつりと語ったところによると、少年は人狼のコミュニティで一生を過ごすか、あるいはそこから出て普通の魔法使いの通う学校に行くかで迷っているらしかった。
「人狼のコミュニティで過ごせば、たぶん君は傷つくことのない穏やかな人生を生きていけるだろう」
 ルーピンはいつもの彼らしく、慎重に考えて語った。
「君にはっきりした事が言えればよかったんだけど、私の人生は特殊だから、あまり人の参考にはならないと思う。それを頭の片隅に置いて、これから話す事を聞いてほしい」
 自分はホグワーツで素晴らしい友人を得る事が出来たが、それは努力によるものではなく幸運と巡り合わせのおかげだった、とルーピンは言った。
「それまでの私は酷い出来事に打ちのめされすぎて、正直言って何のために生きているのか分からなくなっている状態だった。友達と出会って、私はこの友人を得るために生まれたんだと思った。でも狂った独裁者が現れて社会が変わった。君はもしかしたら知らないかもしれない。たくさんの人が亡くなった。私の友人も。私はこんなに悲しい思いをするくらいなら、友達なんか要らなかったと思った」
 ルーピンは穏やかに微笑んでいたので、それはあまり深刻な話には聞こえなかった。しかし少年は目の前の平凡な顔立ちの人狼の男が乗り越えてきた様々な怒りと苦悩を、敏感に感じ取ったらしかった。
「でもシリウスと、彼と再会した。今、私はシリウスと出会えた事に感謝している。ホグワーツに行って良かった事と悪かった事はちょうど同じくらいで、どちらが勝っているとは言えない。でも私の人生はまだ終わっていないから、いつかどちらかに決まったら君に教えたいと思うよ」
 シリウスは、心からの尊敬を表現するために恋人を抱擁したいという強い欲求と果敢に戦った。やがて苦闘の末にとうとう打ち勝って、冗談めかして少年に言った。
「もし君が学校に行ったなら、仲良くなろうと寄ってきた子に、どうかあまり素っ気なくしないでほしい。彼ときたら俺の事を気まぐれに貧乏人を構って遊ぶ傲慢な子供だと決めつけて碌に相手をしてくれなかった。彼の信頼を得るのは本当に大変だったんだ」
 「分かりました」と少年は微笑んで返事をした。その日の話は彼に多大な影響を与えたらしく、午後の間ずっと少年はぼんやりと考え事をして過ごした。


 少年が滞在する2週間のうちに、満月の日があった。それは彼のこれまでの人生の満月の中で忘れられない特別なものとなった。
 オレンジ味やストロベリー味と言ったごく一般的な脱狼薬を前に、ルーピンは昔の脱狼薬の殺人的なまずさを語った。それは今でも人狼資料館で体験できるらしい。「将来君に恋人が出来たとして、そのひとが人狼について詳しくなかったら一度行ってみるといい。あの薬の味への呪詛だけで、おそらく午前中いっぱいは会話が弾む筈だ」ルーピンは笑って言った。少年は狼の姿に変わってからも、薬の味に対するルーピンの豊かな罵り文句を思い出し、小さな咳を繰り返した。狼の身体で笑おうとすると、少し苦しい思いをするのを少年は初めて知った。
 そして鳶色の毛並みをした立派な体躯の狼が彼を外へと促した。玄関で待っていたのは、その狼よりも大きな黒い犬だった。月光の下で見ると怪異めいて巨大で不吉なその姿に、狼の少年は尻尾を丸めた。この黒犬に比べれば自分などは毛玉も同然だし、黒犬は前脚1本で自分の首の骨を折ってしまえそうだと彼は思った。事前にシリウスはアニメーガスの魔法を習得していて、巨大な黒犬に姿を変えると聞かされていなければ逃げ出していたかもしれなかった。
 普段の彼等は満月の日に外出はしないが、今回は特別なのだと少年は説明された。
 もし狼が正気を失って民家の方へ向かったら、黒犬の姿をしたシリウスが多少手荒な手段を使ってでも必ず止めると聞かされて、少年は安心して駆けることができた。4本の足で疾走するときの、背中がぞくぞくとするスピードと爽快感。彼は夢中になった。時々黒犬や大人の狼が体当たりを仕掛けてきて、彼は吹っ飛んで転がったり、または伏せてかわしたりしてその遊びを楽しんだ。
 黒犬に柔らかく首を銜えられ空高く投げ上げられて、その力があまりに強くて満月が空いっぱいに広がったように見えた。これまでは直視すらできなかった丸い月が、綺麗で面白いものに思えた。尾を振って何度も何度も投げてもらううちに夜明けが近付いて、黒犬は小さく吠えて狼に注意を促した。
 疲れ切った子狼を彼等は背に載せて連れ帰り、寝巻に着替えさせてベッドへ横たえた。好ましい匂いのする2組の手が、まるで親のように優しい手つきで自分の枕と掛布を整えてくれるのを、少年は夢うつつに感じながら眠った。満月の日を名残惜しく思うのは、彼には初めての経験だった。


 あっという間に2週間が過ぎ、少年がその家を去る日が来た。朝から悄然として荷造りをしていた子供は、しかし出発の直前になって大泣きを始めた。それは胸の痛くなるような、激しい泣き方だった。
 あまり泣き慣れていないのだろう彼は、呼吸困難を起こしながら泣きに泣いて、そのうちに自分の涙に激高して棚の物を投げ、家具を蹴飛ばし、カーテンに身体を撒きつけ、そのまま転んで頭を打ち、ひっくり返ったカブトムシのように手足をそれぞれの方向に動かし、そのまま床のあちこちに移動した。
 あまりの出来事にシリウスとルーピンはただおろおろと、仰向けの少年に付いて回って部屋中を移動した。少年との別れにナーバスになっていた2人の気持ちが切り替わって、無になったくらいの驚愕だった。
 「またいつでも遊びにおいで」とか「君がいなくなるのは寂しい」とか、こういう場合に子供が否応なく聞かされ益々気落ちする言葉だと分かっていても、2人はそれ以外にかけるべき言葉を見つけられなかった。
 どちらかといえばエネルギー切れのせいで、少年は徐々に落ち着きを取り戻した。大人2人は肩を落として、子供1人は泣きながら、ほぼ無言で駅へ向かい、子供からの強い強いハグを受けて彼等は別れた。帰路でも口がきけないほど2人は意気消沈していた。





「だからあの子は悪くないんだ……」
「でもあれからずっと何もできないほど疲れ果ててね。私もシリウスももう若くはないし…… 学校を卒業したのは随分昔だ。妙な話だけど、子供の頃はこんな風だったなあって懐かしく思い出したよ」
「うん、時々苦しくなるくらいあの子はお前に似てた」
「私もそう思ってたけど、最後の大癇癪を見て、昔の君を思い出した」
「いや……待てリーマス。俺はあそこまでは……」
「ほら、昔、私の誕生日のお祝いを3人で準備してくれていたのに、君が全部叩き壊して燃やした事があったじゃないか。丁度あんな感じだった」
「……あっ……はい」
「たしか君たちより前に他の子に誕生日おめでとうって言われたとか、そういう理解不能な理由だったね」
「……はい。思い出しました。反省してます……」
「よろしい。なんていうかあの世代はエネルギーが違って……だから一緒になって遊んでいると大人は動けなくなってしまうんだろうね」
 ルーピンは少し残念そうに言った。シリウスもしんみりとそれに同意する。
「違うよ」
 黙って2人の話を聞いていたハリーはきっぱりと断定した。
「シリウスも先生も、自分が疲れて動けないと思ってるの?違うから。その子がいなくなって寂しいんだよ」
 2人は暫くぽかんとしていたが、やがて顔を見合わせた。どうやら腑に落ちるところがあったらしかった。
「その子の住所は知ってるの?じゃあハガキを書きなよ!元気の出るような事を。ほら、あなたたちのやる気も出てきたでしょう?」
 言われるままに彼等は少年へのメッセージを書いた。熟考したのち、文面は「実は2人には、君に黙っていた秘密があります。次に会うまでに答えを考えておいてください」というものになった。少年はさぞかし真剣に考えこむに違いなかった。
「ていうかさ、僕は今日ルーピン先生のお誕生日祝いを言いに来たんだけど。今年は国外に出ずに家にいるみたいだったし、会えるかなと思って」
「あっ、そういえば……もう3月か」
 書きあがったハガキを置いて、心底びっくりしたというようにルーピンはカレンダーを見た。壁に掛かっているそれは、まだ2月のままになっている。
「いやはや、すっかり忘れてたな……さすがの君も今年ばかりは……」
「……え?俺が忘れていたかという話なら答えはNOだが」
「ええっ!?だってここしばらくそれどころでは……それに数日は私と同じでずっとこの部屋でぐったりしてたじゃないか……」
「ああ。ぐったりしていたが、夜中に起きだして準備した」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「まったく。君は誕生日お祝いマシーンか。自動なのか」
 たまりかねて笑い始めたルーピンに、シリウスは憮然として窓の外を指し示す。
 大地は先ほどまでは存在しなかった植物に見渡す限り埋め尽くされていた。深い緑色。所々に見え隠れする愛らしい紫色。菫だった。
 思わず声をあげてルーピンとハリーは玄関のドアから外へ飛び出した。
 庭から始まって遥か遠くまで、菫は続いていた。呼吸をすると、甘く冷たく上品な匂いが胸を満たす。
「これは……幻覚?」
「いや。ここ何日か、この土地に何もないように見せていたのが幻覚。魔法で香りも消していた」
「今年は暖かいから、この菫が傷まなくて良かった。とても、綺麗だ。近隣の人はちょっとびっくりするかもしれないけど」
 ルーピンは少し目を細めて遠くを眺めている。
「いままで忘れていたよ。君からの菫。懐かしいな」
「俺も忘れていた。お前のさっきの話で思い出した」
「君が過去を忘れるなんて珍しいね」
「自分に都合が悪い事は人並みに忘れるさ。急にそんな話をするから、俺がヘマをしてこの菫が見えているのかと思って焦った」
 2人が何か菫にまつわる過去話をしているらしいと見守るハリーに、彼等は同時に振りかえり「昔に―――」と言いかけた。シリウスがルーピンに譲る仕草をして、彼は愉快そうに「私の誕生会を3人が企画してくれて、それはそれは素晴らしいものになる予定だったんだそうだけど、残念ながらシリウスが些細な理由ですべてを破壊して火を付けて滅茶苦茶にしてしまった。癇癪が去った後で我に返った彼は困りに困って学校内の花壇から菫を摘んで、花束にして私に差し出した」と語った。ハリーは内心「そんな友達は嫌だな……」と思ったが黙っていた。
「花束を受け取るかどうか、真剣に悩んだよ。ジェームズはショックで魂の抜けた状態だったし。でも、まあ、完璧な王子様に見える彼も見た通りの人間ではなくて、私のものぐさや人狼の病がそうであるように欠点やハンデを抱えている。そう思ってみたらなんだか気が楽になったんだ。花を受け取ったら、シリウスは本当に嬉しそうに笑った」
「悪口は終わったか?」
 手で両耳を押さたシリウスは笑って様子を窺っている。
 ルーピンは彼の片手を耳からどけて「脱癇癪薬があればよかったね」と優しく囁いた。
「誕生日おめでとうリーマス」
「ありがとう。菫も嬉しいよ。懐かしい」
 一緒に散歩に行こうと誘う2人に、留守番をしていると遠慮して、歩き始めた彼等の後姿をハリーは眺めた。そしてこの人達は本当にお似合いの恋人同士が奇跡の出会いをしたんだなあと、何十回目かの感慨を改めて抱いた。
 一面の菫の中を、恋人達が笑いながら歩いて行く。それはおとぎ話の挿絵のような光景だった。春の初めの清々しい空気と、天国的な菫の香りを存分に味わって、ハリーは義父たちの家へと戻って行った。








個人的には、ルーピン先生が
ホグワーツに行ったのが良いことか悪い事か
今はまだ分からないって言ったのが驚きでした。
行ってよかった、って思ってるのかと私は思ってた。

二次創作のキャラクターは、100%私が考えて
私が動かしてるって思う方なんですが、
シリルに関してはいつも私の脳の1割くらいを使って
生活している感があって、それが10年以上続いているので
独立したひとって感じがします。
「今なにやってるの?」って時々覗く感じ。

ルーピン先生、お誕生日おめでとう!
2016.03.10