誕生日とプレゼント7
シリウスの眠りは深かった。 大人になった今でも彼は、まるで子供のようにぐっすりと眠る。彼にとっての睡眠は完全な停止であり、小さな死でもあった。なので彼は目覚めてすぐには意識が戻らない。あちらの世界に溶けた自我を取り戻しながら、ゆっくりと覚醒する。 その夜もそうだった。 夜中に誰かが足の甲に触れて、シリウスはそれがルーピンであるとすぐに気付いた。ノックで自分が起きなかったので部屋に入ってきたのだろうとシリウスは考えた。返事のような寝言のような声を少し出して、シリウスは目を閉じたまま寝台の端へ身を寄せた。ルーピンは「遊びに」来たのだろう。寝台の軋む音がして、ルーピンが隣に寄り添った気配が感じられた。シリウスは右腕を伸ばして彼を抱き寄せた。相変わらず綿の足りない貧相な抱き枕のような感触に、シリウスの口元が緩む。もう少し幅があった方が腕に収まりやすいんだが。そう言いたくても眠気が邪魔をして口が開けなかった。嗅覚に馴染んだ、植物に似た匂い。シリウスは彼の胸辺りに鼻を寄せた。 「予告なしで申し訳ないけど、どうだろうシリウス」 ルーピンは小声でそう言って、シリウスにキスをした。夜中に人を起こしておいて主語も述語も目的語も随分不明瞭だな、シリウスはからかったつもりだったが実際は発音していなかった。それに特に不満がある訳ではない。夜中の訪問者を組み敷いてはいけないという決まりはなかったので。 キスを続けながら、ルーピンの手がシリウスの背を抱いた。 シリウスは顔を離し目を開いた。その触れかたは、彼の恋人のものではなかった。指先で触れるか手のひらで触れるか、そんな些細な違いであるが、それは彼の全身を総毛立たせるに十分な違和感だった。 「シリウス?」 暗闇の中で横たわってこちらを向いているのは確かにルーピンだった。しかし覗き見えた歯の数が、妙に多いように思えた。 常に傍に置いている杖を握ろうとシリウスは腕を伸ばしたが、ルーピンが覆いかぶさり、彼の手首を捕えて恐ろしい力で戒めた。夜半の侵入者に命を狙われる経験を幾度も繰り返したシリウスは、この正体不明の何かを膝で蹴り上げて、ルーピンの名を大声で呼ぼうとしたのだがどちらも阻まれた。ルーピンの顔をした何かはゆっくりとシリウスの奥歯を舐めたあと、気道の入口付近に舌を差し入れたので彼は咳き込んだ。それは人間の舌の長さではなかった。おかしなことだがこの緊迫した状況でシリウスの脳裏には「不貞」という文字が点滅した。貞操がどうのという悠長な話ではなく、おそらく生命の危うい時に、ましてやルーピンの安否も不明なままだというのに、シリウスは頭の片隅で恋人への言い訳を考えていた。 「誕生日おめでとうリーマス」 食卓に座ったシリウスがそう言ったのだが、起きてきたルーピンは少し緊張した面持ちで返事をした。 「ありがとう。ところでシリウス、なにかトラブルが発生したのでは?」 シリウスは少しだけ視線を下げて詫びた。 「その通りだ。すまない。どうして分かった」 「酷い顔色をしている。私のために使った魔法のトラブルかな。その、以前のような。私にできることはあるだろうか?」 「お前はこれからゲームをしなければならない」 「えっ!?」 「俺に関するある事柄に、お前は『正解』を答えなければならない」 「……君が本物のシリウスではない、という可能性は?」 「もちろんある。お前はそれを確かめる事ができる。最終的に解答できるのは1回きりだ。俺はあらゆるヒントを出すことを禁じられている。もし出せばゲームが無効となり……」 「無効となり?」 「お前は失格する」 「いま何か言いかけてやめたね。それはともかくまず確認しよう。立ってくれシリウス」 ルーピンは立ちあがった友人に近付いて無造作に彼を抱擁した。 「私の背に手を」 言われるままに抱擁を返すシリウスの手が触れると、ルーピンは息を吐きだした。 「とりあえず君は本物のシリウスだ」 「ああ、俺も昨日の夜にお前の顔をした悪魔と抱き合って気付いた。何が違うんだろうな」 「彼等には抱擁の習慣がないんだよきっと。君はいま悪魔と言った」 「昨日の夜にお前の顔をした悪魔が来て」 「どうして目が泳いでいるんだ。それは例の?」 「たぶん違う。おもしろい人間がいると噂になっているから見に来たと言っていた。小さな女の子の声だった」 「まるで観光地だ」 「自分もゲームがしたいから、俺を題材にすると悪魔は言った。そのゲームはお前が起きてくると同時にスタートする」 「そのゲームに応援を呼んではいけないのかな。ハリー達を。特にハーマイオニーを。正直私の能力では不足だ」 「現在この家の中と、外の世界は時間の流れが違っている。俺達は出ていけないし外からも入ってこられない。ここでの1分は外での24時間だ」 「……そうじゃないかとは思っていたけど……ゲームに失敗するとどうなるんだろう?」 「・・・・・・」 「シリウス」 「分からない。たぶん何も変わらない」 「それはヒントになるから言えないと解釈しても?」 「大丈夫だリーマス。死んだりはしない。約束する」 「残念ながらこういう場合の君の『大丈夫』は信用できない。すまない」 「ひどいな」 「君は前科がありすぎる。今の君の体は健常なのか?どこか損なっていたり、痛みがあったりは?」 「とりあえず痛くはない。苦しくもない。それより言っておかなければならない事がある」 「え?うん」 「お前と全く同じ姿をした悪魔と俺はキスをしたが、それ以上のことは何もしていない」 「……うん。それで?」 「キスも一瞬だけですぐに―――」 「ちょっと待ちなさい。それはゲームに関係ある話なんだろうね?」 「……ええと、あるかないかで言えば、ない」 「……分かった。私は一切気にしないから忘れていいよ。でも今の会話で24時間ほど無駄にしたことは覚えておくように」 「……はい」 「せめてあと20分考えていいだろうか。またもや1箇月ほどを失ってしまう事になるけど」 「大本の責任は俺にある。10年考えても構わないさ」 「その場合私達は謎の失踪を遂げた男性同士のカップルとして変な怪談話になること間違いなしだ……ゴシップ誌に何と書かれるかが目に浮かぶよ。頑張るけど、間違ったら、どうか許してほしい」 「おいおいどうしてそんな弱気なんだ」 「こういう場合私は『どちらでもいい』と思っているケースの方がうまくいくんだ。『どうしてもほしい』『なくなったら困る』と考えると駄目になる」 「それから?」 「それだけだ」 「今のは情熱的な告白が続かないと不自然な流れだと思ったが」 「腹の立つくらい通常運営だな君は」 ルーピンは話しを続けながらシリウスの影をチェックした。果たして彼の足元にはそれがあった。形にも異様な所はない。次に彼はシリウスの衣服を剥ぎ、痣の有無を見た。頭皮や上顎などの分かりにくい場所までくまなく探したが見つからなかった。 「ちょっと顔を舐めるけど我慢してくれ」 「……どうぞ」 材質が塩や砂糖に変えられているかもしれないという可能性は否定された。ルーピンは友人の両手両足の爪を調べた。虹彩の色を確認した。彼を歌わせてみた。どこにも異常はなかった。 「この問題は私に解けるだろうか?君はどう思う」 「……五分五分だと思う」 「この方向性で正しいかどうかは?」 「それは言えない。ヒントになってしまう」 耳を見た。髪の長さを確認した。足の裏を見た。舌を見た。歯を見た。左右の手の長さを比べた。足も。シリウスは何か思い出すところがあるのか、少し慄いたがルーピンは構わずにキスをした。何も変化はなかった。 珍しくルーピンが眉に皺を寄せた。シリウスは人が難問で困っているのを見るのが苦手な性分で、そういう時にはつい手出しをしてしまうのだが、今回ばかりはこらえなければならなかった。 ルーピンはシリウスの手に水を掛けた。髪を一筋燃してみた。 「性器を見ていない」 「なんだって」 「悪魔と言えば男性器、そして肛門だ」 「リーマス……!それは……」 「正誤を言っては駄目だシリウス。解答した事になってしまう。私が相手だから恥ずかしがる事もないだろう?」 「・・・・・・」 「別によこしまな気持ちで言っている訳ではないし……」 「よこしまな気持ちで言われた方がましだ!」 「分かった。じゃあ、よこしまな気持ちで言っている。だからシリウス」 「そんな適当なよこしまさは嫌だ!……ここは食卓で……」 「寝室に行ってもいいが、往復しているだけで現実時間1週間のロスだ。それに食卓が何だと言うんだ。この家の中で君が、いや君と私が行為に及んだことのない部屋があるか?」 「……階段と……廊下と……トイレと浴室」 「そうだね。それらは部屋ではない。手を洗ってくる」 5分後、別人のように打ちひしがれたシリウスは食卓に顔を伏せていた。 「人間の尊厳を奪われた……悪魔よりお前の方がひどい……」 「これで君と悪魔がグルという可能性は消えた」 「お前……そんな疑いを……。俺はむしろお前と悪魔の共謀を疑いたくなってきた……」 「私はもう忘れた。君も忘れよう。生きていれば色々あるさ」 「俺の人生の色々具合はもう飽和状態だからこれ以上はいらない……」 顔を覆ったシリウスに、ちらりと笑顔になったルーピンの表情はしかしすぐに曇った。 「でもどうしようシリウス、私にはまるで見当がつかない。方向性が見えないんだ。クイズを解かずに力尽くで解決できるのなら……」 彼は無意識に爪を噛み、自分でその古い癖の再発に気付いて右手を下ろした。 「落ち着け。それは無理だ。時間の事は一旦忘れろリーマス、一年考えても構わないから。お前は慌てると実力が出せない。ゴシップ誌には好きな事を書かせておけ」 「ここにいるのが私ではなくハリーだったら……」 「ハリーには多分解けない。リーマス、目を閉じてゆっくり呼吸しろ。そうそんな風に。俺とジェームズがお前に助けられたことは一度や二度じゃなかった。お前はいつだって頼りになる奴だった。俺達は本能で突っ走ったがお前は慎重に確実に進むタイプだ。そうだろう?」 「……買い被りだよ……でもありがとう、ちょっと落ち着いたような気がする」 「お前の解決法は常に正規ルートから遠い。普段通りに行くんだ」 「否定できないな。……私は子供の頃にその手の物語が大好きで……読んだ本の中に出てきた悪魔は色々いたけれど……性別を変えたり……」 「それは確認済みだ」 「そんな血相を変えなくても。あとは人間を金に変えてしまったり。君には似合いそうだ」 そう言うと、ルーピンは腕を伸ばしてシリウスを抱擁し、少し抱えあげた。 「あれ?ちょっと軽い……?」 ルーピンはシリウスの顔を覗きこんだが、彼は無表情だった。ルーピンはもう一度深呼吸をする。 「正しい方向が見えた気がする。材質が違うのか……人体よりも少し軽い木材や……。……あるいは何かが足りない。そう言えば君はさっき『どこか損なっていたり、痛みがあったりは?』と私が聞いたとき、痛みに関しては返事をしたけれど……」 そう言うと、ルーピンははっと顔をあげてシリウスのシャツを開き、胸に手を置いた。 「分かった。解答する」 シリウスはじっとルーピンを見守っていた。不安はなさそうだった。 「いまの君には心臓がない」 部屋の中は静かだった。緊張に耐えかねたようにルーピンは目を閉じた。 「正解だ、リーマス」 シリウスがそう告げると、ルーピンはゆっくりと椅子に歩み寄って行き、そこへ腰を下ろした。シリウスが傍へ行くと彼はうつむいたまま叩くというよりは触れるように拳で友人の腕を打ち、その後で強く握りしめた。 「それしきで怒りが収まるのか?なんなら殴ってもいい」 「怒りじゃない。安心して八つ当たりしてるんだ。ともかく……」 「うん」 「生きた心地がしなかった」 「すまない。よく気付いたな」 「最近の君のブームのおかげだ。不機嫌になると私の背に凭れかかったりぶら下がったりする例のあれ。おかげで重さの違いに気付いた」 「しかし体重との比率でいえばわずかな違いだ」 「そういえばそうだね。でもまあ心臓をとられる物語は多い。脳や胃や腸をとる悪魔の話は知らない。重さに気付かなくても辿りつけたかも」 「名探偵ルーピン登場だな」 「推理などなしに勘で決め付ける名探偵だけど。ところで私が正解を答えたのだから、もちろん君の心臓は返してもらえるんだね?」 「その筈だ」 しかしふとルーピンは上を見上げて心底げんなりした顔をした。 「……悪魔は取り決めを守るものだと思ったけど、最近はそうでもないらしい」 そう言って彼が天井を指差したので、シリウスが上を向くとそこには汚らしい茶色い文字が浮かび上がっていた。 い や だ ! 稚拙な字は天井いっぱいに書かれている。 「清掃は悪魔がすると考えていいのかな……」 「心臓を返してくれるなら、俺が天井掃除をしてもいいんだが」 も っ と あ そ ぶ つ ぎ の ゲ ー ム だ し ん ぞ う は か え さ な い い え に ひ を つ け る あ そ ぶ も う ひ と つ の し ん ぞ う も よ こ せ ゲ ー ム だ お も し ろ い 壁に、家具に、床に、次々と文字は浮かび上がった。文字だらけになった部屋で2人は視線を交わした。一か八かの賭けで暖炉ネットワークに飛び込むか、もしくは魔法で撃退するか。悪魔に魔法が効けばの話ではあるが。しかしシリウスの心臓の件がある。ルーピンは咎めるような眼をし、シリウスは首を振った。 突然家全体が揺れた。 体が浮くほどの縦揺れだった。地震に慣れない彼等は息を飲んで硬直した。シリウスの腕がルーピンの頭部を庇って伸ばされる。 部屋中にあった文字は一瞬で消え、新しい文字に書き替わった。 い た い ご め ん な さ い や め て い た い 天井から剥離した塗料や細かな埃が落ちてきた。ガラスなどはまだ微かに震えている。じっと動かずにいる彼等の耳に、玄関の扉が開く音が聞こえた。ごく普通の人間の客が来たときのように、足音が玄関から廊下へと移り、こちらへと近付いてくる。食堂の入口に姿を現したのはシリウスだった。ただし異様に古めかしい衣装を着て、そしてその身なりは入念に整えられている。肌は本物よりもやや白く、黒髪はたっぷりと艶があり、唇は赤い。 以前に一度この人物に会っているルーピンはぼんやりと相手を眺めていたが、本物のシリウスは少々ショックを受けたようだった。 「肖像権を主張したい。なぜ俺の姿なんだ」 「私に訊かれても……何かがお気に召したんだろう、としか」 彼はパーティーの主賓のような堂々とした態度でテーブルの一番奥の席に座ると、悠然と足を組んだ。鋭角のデザインの靴は顔が映りそうなほど磨きあげられている。 「こちらの側の者が失礼をした。心臓は返そう。時間も戻す。お前達は勝利したのだから当然の権利だ」 先程まで2人にゲームを仕掛けていた何者かは彼の眷族であり、上位の存在である彼が何らかの対処をしたのだろう。しかし到底詫びているとは思えぬ態度の悪魔と対峙してシリウスは、「姿形は同じだが、自分はこんな傲岸不遜ではないし、似ているとは言えないな」と内心考えたが、ルーピンは「ああ、シリウスが公的な場で断固拒絶の交渉をする時の顔にそっくりだ」などと思っていた。 「不満はなかろうな?」 シリウスの両眉が寄った。ルーピンには、彼の不機嫌スイッチがたてたかちりという音が聞こえた気がした。シリウスは数歩進んで悪魔の前に立ち、腕を組む。 「不満?大ありだ」 「ほう」 「……シリウス、こういう場合欲をかいた登場人物は碌な事にならないのが物語の定石だけど……」 「べつに浅ましい気持ちで言っている訳じゃない。今日はここにいる友人リーマス・ルーピンの誕生日だった。悪魔はそれを台無しにした。償って頂きたい」 冷たい美貌と冷たい美貌が鏡で映したように向かい合う。ルーピンは以前にも一度似たような経験をしているが、ものが二重に見えているようで、落ち着かないのだった。 「俺は新しい星を作って彼に贈るつもりだった」 隣にいる友人と、そして悪魔から穴のあくほどじっと注目されたがシリウスは動じなかった。却って胸を張って彼は宣言する。 「大がかりな魔法だが成功していた」 「星を?人間のお前が?」 「俺の魔法は過去にあなたを召喚した。体調が万全なら使役すらしただろう。実力はご存知だと思ったが」 「……確かに。しかしお前は真珠になって隣の友人に命を救われた事も忘れてはならない」 「……忘れてはいない。笑うなリーマス。失われた魔法の償いはされるのか」 悪魔は少し笑った。笑顔はあまり似ていないようにルーピンには思われた。目が笑っていないのだ。 「償おう。望みを言うといい。星を望むか?それとも巨万の富か?」 何でも言えといかにも誇らしげに手を広げる友人に、ルーピンはため息をついて首を傾げた。星を望んでもいいが、マグルの専門機関を大騒ぎさせるかもしれないという不吉な予感がした。 「……死者の復活は?」 「残念ながら叶えられない。100度同様のゲームに勝たなければ釣り合わぬ」 元より大きな期待はしていなかったのか、軽く肩をすくめて彼は続けた。 「では、この家に今後一切悪魔が立ちいらぬという保証を頂きたい」 「おい……」 今度はルーピンが悪魔とシリウス、同じ顔をした2人からまじまじと見られる番だった。 「「そんなことでいいのか?」」 同じ声が同じタイミングで同じ台詞を言ったので、まるで部屋に響き渡ったように聞こえた。 「例えば想像してみてくれ。突然君とおしゃべりがしたくなった私が夜中に君の部屋をノックする」 「夜中におしゃべり?」 「脱線しない。ともかく今後私が夜中にやってきた時、君は100%安心してドアを開ける事ができるか?」 「そうだな……できないな」 「では巨万の富と安心できる生活、どっちが大切だと思う」 「分かった……お前が正しい」 やや悔しそうではあるが一応の同意を得られて、ルーピンは悪魔に頷いて見せた。悪魔は懐中時計を取りだしちらりと眺めた後、立ちあがった。 「平和的に解決して何よりだった」 どうやら今回は姿を消したりはせずに玄関から退出するらしく、彼は歩いて食堂を横切った。こつりこつりと靴音を響かせ、途中で一度振り返り 「誕生日おめでとう、リーマス・ルーピン」 と述べて去って行った。 そうして例のごとく疲れ切った彼等は眠りこんでしまい、目が醒めるとシリウスの心臓は無事に元に戻っていたが、何故かその日は2月10日だった。もしや悪魔は数字に弱いのではないかと彼等は噂し合った。 せっかく寒さも緩んでいたのにまた冬に逆戻りだと文句を言いながら彼等は毎晩一緒に眠った。そればかりか驚くべき事に手を繋いで眠る日もないではなかった。朝まで繋いだままでいれば確実に体の半分ほどが痺れてしまうにも拘らずである。悪魔の不可侵条約を取り付けたとはいえ、夜に友人の顔をした別の何かが寝室を訪ねてくるという経験は、2人に、とりわけシリウスに大きなトラウマを植え付けたらしかった。 その調子で2人は、3月になっても4月になっても、「まだ寒い」という胡乱な言い訳をして、同じ寝室で眠り続けたのだった。 パラノーマル・アクティビティをやるつもりでしたが これ「※パラノーマル・エンティティ」じゃないですか!と自分で思いました。 ※有名映画によく似たタイトルで低予算映画を作って うっかりさんのお客を狙うモックバスターという便乗商法で 「パラノーマル・エンティティ」は本家にお色気要素を足した仕上がりとなっているそうです。 私は見てません。 うん……あと人体の不思議展てきなところの体験コーナーで 脳(実際と同じ重さにしてある)を持ったときに結構重かったので 心臓もまあ1キロはあるだろうと思っていたら せいぜい350グラムでした。 違いの分かる男ルーピン先生になってしまった。 (あと先生は自分の病気の事を完全に忘れている) もはやこれお祝いになっているかどうかわかりませんが おめでとー先生ー! 2013.03.10 |