誕生日と機関車



「『この機関車セットはな!夜に走らせないとだめだリーマス!夜が一番きれいなんだ。いいか?夜だぞ!』むかし君はそう言っていた。『本当はベースをマグルの日本製にしたかったんだけど、俺は日本語苦手だからなあ』とか、または『ゲージがどうのこうの』『バッテリーがどうのこうの』。いま思うと君は照れていたんだね。当時の私は目を白黒しながら君の説明を聞いていた。見たこともないような上等の包装紙と金色のリボンだった。それでなくても私は君達から沢山の驚くべき贈り物を受け取っていたのに、これ以上どうしたらいいのか泣きそうな気分でもあったけど。

私はこのジオラマの中で機関車を走らせるのが好きだった。特に夜。君が褒めるもので期待はずれだったものなど一つもない。夜になるとジオラマに明かりが灯り、車両にも照明が入る。 中の人々とそのドラマがよく見える。ほら、あの2両目の紳士は家族へのお土産を沢山抱えている。同じく2両目の夫婦は手をつないだまま同じ星を見ていて幸せそうだ。1両目から4両目までを走り回っている元気な子供はやがて疲れて眠ってしまう。それを車掌さんが抱き上げて母親の元へ運ぶ。車掌さんの後には彼の飼い猫が常に付き従う。最後の車両にいる4人の女の子は、これから同じ寄宿制の学校に向かうところで、出会ったばかり。いま、名前を名乗りあっている。眼鏡の女の子がとてもひょうきんだ。ああ、紳士が荷物を持って列車を下りた。迎えに来た家族とホームで抱き合っている。……これを見ていると私は、世界を見守っている神様のような静かな気分になれた。これを作った人がどんなに器用でどんなに優しい人か、このジオラマから読み取れたし事実その通りだと私は知っていた。


……保存状態が完璧?いやそうでもない。ほら、そこの端の駅、屋根が壊れているだろう。私が踏み潰しかけたんだ。……違う。転んだんじゃない……壊そうと思ったんだ。でもどうしても出来なくて、今度は火をつけようと思った。マッチをすって、そしてジオラマに落とそうとしたんだけど、やはり出来なくて私は親指に火傷をした。ああ、そんな跡の残る大火傷じゃないから大丈夫。どうして魔法を使わなかったって?それは……こんな手の掛かったものを杖の一振りで消してしまうのは酷いと思ったんだよ。
夜を走る列車は相変わらず綺麗だった。子供の頃も胸が詰まったけれど、大人になってから見てもその美しさは完璧だった。これを私の為に苦心して細工してくれた人は監獄に行ってしまったのに、列車は夜の中を蛍のように優雅にすり抜けて走る。この機関車に魅了されていた私を微笑んで見ていた友人は殺されたというのに、ジオラマの夜景は郷愁を誘うように揺れる。でも私はこれを壊せなかった。


シリウス、実はそれから私はプレゼントが少し苦手になったんだ。人間は変わるけど、命のないものは変わらない。そのまま在り続ける。別に悪い事ではないが、それが耐えられない時もある。私は受け取った品物が変わらず在り続けるより、本体が手元にある方がいい。聞きようによってはすごい我侭な事を言っているね。


ん?踏み潰されたり火をつけられたりしないという保障があればいつまでも傍にいる?それは本人の心がけ次第だよブラック君。それに私はものを大切にする性分でね。実際機関車はちゃんと走っているだろう?ほら、相変わらずとても綺麗だ」






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