二編175番  『深い川を越えて』

■歌詞にもあるとおり、「河」とはヨルダン川のことである。

出エジプト記3章「モーセの召命」17節に“あなたたちを苦しみのエジプトから、カナン人、アモリ人、・・・・の住む乳と蜜の流れる土地へ導き上ろうと決心(promised)した。”また、ヨシュア記1章2節“わたしの僕モーセは死んだ。いま、あなたは(ヨシュア)この民すべてと共に立ってヨルダン川を渡り、わたしがイスラエルの人々に与えようとしている土地に行きなさい。”

「ヨルダン川を越える」ということは「約束の地」に行くことで、このテーマは、この世ないしは来世で今よりもよい暮らしを求めるという意味で他にもいくつもの黒人霊歌で(また、讃美歌第二編170番「あらしをはらめる」のように 白人霊歌でも)扱われている。現実には、オハイオ川などの「深い川」を越えて北部の自由州へ行くことと意味を重ね合わせたかもしれない。

 

■ナッシュヴィルのフィスク大学の合唱団ジュビリー・シンガーズが歌い広めた黒人霊歌で、彼等の活動とレパートリーを記録した J.T.B. Marsh 編 The Story of theJubilee Singers, With Their Songs (1875) に初めて収録された。ここでは単旋律の曲として載っていて、"I want to cross over Jordan into campground" という文句がいくども繰り返される版であるが、冒頭部分の旋律は現行版とだいたい同じである。H.T. Burleigh (1917)などの編曲によって、Paul Robeson, MarianAnderson をはじめとして多くの歌手が、たいていは哀愁をこめて歌っている。

■Deep river、my home is over Jordan

 深い川を越えて

 

Deep river , my home is over Jordan ,

Deep river , Lord, I want to cross over into campground.

深い川を越えて さぁ、行こぅよ、

なつかしいこころのふるさとさして。

Oh, don’t you want to go to that gospel feast,

That promised land where all is peace?

Oh don’t you want to go to that promised land,

That land where all is peace?

みめぐみの主の救いと平和を

友よ、さあうけよう。

Deep river , my home is over Jordan ,

Deep river , Lord, I want to cross over into campground.

おぉ、深い川を越えて さぁ、いこぅよ、

なつかしいこころのふるさとさして。

 

■なお、遠藤周作の最後の作品の題名(『深い河』)はこの歌からである。

遠藤周作は「『深い河』創作日記」に次のように書いている;

・・・・『河』という題が『深い河』という題に変わったのは黒人霊歌の「深い河」を昨日聞いて、それこそこの小説の題をあらわしていると思った。作品中にこの霊歌を暗示する一節を入れたい。

そして、作品の題「深い河」にデイ―プ・リバーと併記し、第1章の始まる前に「深い河、神よ、わたしは河を渡って、集いの地に行きたい   黒人霊歌」と書いている。

Campgroundを「集いの地」と訳している。

背景のmidiは新たに作成しました。

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