質疑応答



【井上医療部長】
 私の後継者でもある順天堂リウマチ内科の 多田久里守医師です。(拍手)
 まず会場からのご質問をお受けします。 挙手で直接質問してください。遠慮なくどうぞ。

(質問)
 私は線維筋痛症とずっと誤診されてきて、 今長野県の病院に通院しておりますが、 多田先生にとって、強直性脊椎炎、 脊椎関節炎、そして線維筋痛症の 見極めというか診断は難しいのでしょうか?

【多田医師】
 難しいです。 強直性脊椎炎と脊椎関節炎については、 レントゲン等ではっきりと診断がつくものは いいのですが、はっきりとしない、 悩ましいものについては、井上先生と検討を 重ねながら症状をつぶさに診て行きます。 似た症状はあるのにレントゲンには出てこないとか、 なかなか難しい患者さんも多いです。

 早期に治療を始めた方がいいのでしょうが、 先ずは痛み止めを使い、日常生活の暮らしやすさ とかに着目していきます。

 線維筋痛症の患者さんの場合、 確かに症状が似ていたり、 合併したりしていることもあって、 強直性脊椎炎だと思っていたら 線維筋痛症だったり、 線維筋痛症だと思っていたら 強直性脊椎炎だったりして、 確かに判断が難しいことが多いように思います。 線維筋痛症についてもまだまだ私など 勉強を始めたばっかりでして、 なかなか任せてくださいとは言えない状況です。

【井上医療部長】
 線維筋痛症についてよく話題にはなっていますが、 医者の方でもまだよくは分かっていなくて、 検査しても異常がなかったりして、 よく分からない時に痛みを訴えると、 みんなそれにしてしまうようなところがあって、 我が国の医師が本当に正確な診断が 出来ているかどうか疑問です。

 両者の合併もあるわけですから、 どちらとも言えない、 どちらでも正しいというようなこともあります。 あなたは絶対的に脊椎関節炎で、 あなたの場合は絶対的に線維筋痛症です と割り切れないところがあるということです。 欧米では、30〜40%が合併しているという 発表もあるぐらいですから…。 両方持っていたとしても 全然おかしくはありません。

 軽いASの症状があり痛みがあって、 痛覚神経が過敏になって、 常に痛い痛いと感じることにより、 やがてはその痛みが慢性化していく、 痛覚過敏状態に神経系がセッティングされる… という流れが考えられます。

 検査結果からも日常動作からしても、 殆どまだ軽いASの状態なのに、 激しい痛みを訴えられる患者さんが 確かに居られます。 血液検査やレントゲンでは 殆ど異常な所見は見られないのに痛い、 あるいは原発の痛みは 既に殆ど軽快しているのに、 脳が痛いという指令を受け続けることにより、 慢性化した痛みを学習してしまう ということがあるみたいなのです。 中枢感作とも表現されています。

 元の痛みは治っている、 殆ど良くなっているのに、 二次的に痛みの感覚だけが残ってしまう、 そちらが主役になって痛みが続く、 増幅していくというわけです。 この状態では過敏な痛覚神経が 災いとなってますので、 もともとの病気の治療をしても 改善はされないわけです。 消炎鎮痛剤とは作用点の異なる様々な 薬で何とかしのいでいく ということになります。 お医者さんの出す薬を漫然と服用するのではなく、 利いているのかどうか、自分自身が 自分の病気の主治医のつもりで 対処していかねばなりません。 医者のアドバイスを受けつつ、 自分で判断していくことが大事です。 もちろん薬だけでなく痛みがやわらぐのなら、 何でも良いわけです。


(質問)
 もうひとつ質問ですが、 強直性脊椎炎に特徴的な付着部炎が、 私は11ヶ所にできているらしいのですが…、 これの対処法といいますか、 この付着部炎はどうしたらよいのでしょうか? 手術でとったりはできないのですか?

【多田医師】
 脊椎関節炎に特徴的な症状のひとつかと思います。 何か悪さをするから手術でとったり とかするものではなくて、 炎症が起こったり消失したりを繰り返して、 やがてその部分が石灰化したりも することがありますが、 手術でとるようなことはしません。 付着部炎というのは骨がくっつく部分に 炎症が出てくるわけですから、 そこの部分の腱をとってしまうと、 大事な骨の部分が動かなくなったりします。 対処法としては、痛み止めとか生物学的製剤を 使って痛みを和らげるぐらいでしょうか。

【井上医療部長】
 付着部炎というように炎症ですから、 一過性のものです。時間かけて保存的 (手術以外)に治していくということになります。 炎症止めの薬を直接注射するということもありますが、 何回もやると腱が変性して切れたりしますから、 そんなにやるものではありません。

 ASやら脊椎関節炎があると、 付着部炎が起きやすいのですが、 付着部炎があるとASや脊椎関節炎であると いうわけではありません。 ASでは仙腸関節炎がありますが、 仙腸関節炎があったらASというものでもありません。 巨大児を生んだ分娩後の母親でもなりますし、 梅毒でもなりますし、化膿性のばい菌でも、 それから老化現象による変形性関節症でも 仙腸関節の痛みが出ます。 この症状があったらこうだと簡単に 決め付けられるものではないということです。


(質問)
 最後にらくちんに書いてあったのですが、 付着部炎に局部注射のステロイド が有効だと書かれていたように思いますが、 私は今通院している病院でリメタゾン® の静脈注射をしていますが、 ステロイドの注射はあまり頻繁にするもの ではないと言われていますが、 局部注射のステロイドは、付着部炎の痛み止め としては有効なものだと先生はお考えでしょうか?

【多田医師】
 私自身はあまり注射はしませんが、 付着部炎への局部注射は 痛み止めとしては有効だと思います。 ただ先ほど井上先生も言われたように、 あまり頻繁にやると腱を傷つけたりする 可能性もありますので、 必要な時だけにした方がいいとは思います。

 静脈注射のリメタゾン®の方は、 血管の中に入れるので変性を生じたりの 問題はないのでしょうが、 とは言っても副作用のことを考えたらそんなに 頻繁に打てるものでもないので、 間隔は2週間を目途にするようにしています。

【井上医療部長】
 私の経験では、ASではリメタゾン® を使用しなければならないようなことは 今まで1例もありませんでした。 最近ヨーロッパで発表された治療指針では、 ステロイドの全身投与は効かないと書かれてありました。 局所の局部注射は効くということです。


【多田医師】
 先ほど会場からいただいた質問で、 生物学的製剤のジェネリックの発売時期とかについて 情報をお持ちであればお聞かせ下さいとありました。 日本ではまだ発売されていないのですが、 中国、韓国ではこの後発品が発売されている という情報があります。 日本でも近い将来発売されるかと思います。

【井上医療部長】
 実は近い時期に発売はされます。 ただジェネリックではないんです。 ジェネリックは化学的構造物が同じで、 剤型とか添加物が少し違うだけで、 基本的には同じものなんです。 とは言えまったく同じものというわけ でもありませんが…。

 ところがレミケード®のは ジェネリックとは言わず、 バイオシミラーと呼ばれるものです。 要は似たような薬ということになります。 科学的構造も似通っているので、 効くのではないかということです。 確かに安くなります。 ただ本当に効くかどうかは分からないし、 長期間の副作用のチェックもなされてはいません。 しかし3割近くも安くなりますので、 使ってみてもいいかなとは思っております。


【多田医師】
 ヒュミラ®を離脱する場合に 基準はありますかというご質問がありました。 生物学的製剤を長期間使用していくと 経済的にも負担が大きく副作用的にも問題になるので、 止めたいという話も出てきます。 強直性脊椎炎では明確な離脱の基準 みたいなものはまだありません。 したがって主治医の先生とよく相談されて、 かなり長くなってるし少し止めてみようとか、 間隔を長く空けて使うようにしようとかの お話になるかと思います。

私の患者さんでもレミケード® を使っていて、 普通は6週間から8週間に1回という薬なのですが、 それを9週に1回、10週に1回ということにしたり、 間隔を空けていって最終的には止めたりして 特に問題なく過ごされている患者さんも居られます。

 ヒュミラ®の場合2週間に 1回皮下注射のお薬ですけどこれも16日に1回にしたり、 18日に1回にしたりして、 月に1度にしたりしている患者さんも居られます。 あとは症状を見ながら、必要があれば間隔を開けたり 狭めたりしながらやっていくことになるかと思います。

【井上医療部長】
 どんなにいい薬といわれているものであっても、 その人にとって効いている、痛みが楽になっている ということが重要なことです。 ヒュミラ®、 レミケード®などの薬であっても ASを根本から治す薬ではありません。 単に痛みと炎症を押さえつけてくれる薬ですから、 患者さんに効いているかどうかが大切です。 痛みが軽快しているか楽になっているかどうかを 常にお医者さんに話しながらやっていきましょう。



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