近藤 宏明(賛助会員・内科医) ASや RA(関節リウマチ)などの自己免疫性疾患では色々な 免疫細胞が産生するサイトカインという物質の過剰・不均衡が病気の 原因と言われています。それで、サイトカインまたはそのサイトカイン の標的(受容体と言います)を抑える働きのある物質を用いて、 サイトカインを効率的に抑えこむことにより効能を発揮する 抗サイトカイン療法といわれる治療法があります。 サイトカインという物質には様々な種類・機能があり、それらは 今日も研究の対象になっています。そのうちTNFαと呼ばれる サイトカインは、炎症が起こっている部位や各々の疾患患者の血中で 濃度が高まっていることが次々と証明され(たとえば クローン病では腸管で、 RA では関節内の滑膜で)、このことからRAを初めとして 様々な炎症性疾患に関与していることがわかってきました。 したがって、このTNFαの働きを選択的に抑えこむ(他の物質は 抑えないという意味。程度は薬剤によって差があります。)抗TNFα 療法が90年代中盤から開発されました。1998年、まず欧米で クローン病(慢性炎症性腸疾患の一つ)、次いでRAに適応と なりました。以来約5年を経た現在、TNFαを抑える薬剤として、 (1)レミケード®(インフリキシマブ)の三剤が欧州または米国で承認されて使用されています。どの薬も 遺伝子組み換え技術を用いて作られますが、(1)(3)はTNFαに対する 抗体、(2)は抗体と化学合成品(いわゆる一般的にいう「薬」)の 合いの子です。 海外の臨床現場では三剤とも明確な効果が認められています。また、 これまでの治療法にはなかなか認められなかった作用として、RAでは 関節破壊に対する抑制作用、クローン病では炎症で破壊された腸粘膜の 修復作用など病巣の原機能を改善・復活する作用が認められており、 これまでの治療法の標準を変える可能性がある薬剤とも目されています。 日本では2002年5月(1)がクローン病に対して承認販売されました。 またリウマチに対しては(1)(2)が現在申請中であり、いずれも2003年中の 承認を目指しています。また(3)は現在臨床試験中です。また日本では 現在、これらとは別に関節リウマチ、クローン病に対して インターロイキン6(IL−6)というTNFαとは別のサイトカインの 受容体を抑える抗体(薬剤名MRA)も臨床開発が進められています。 ASに対しては、近年患者数の多い欧米で(1)(2)を用いた臨床試験が 行われ、いずれの薬剤も投与開始3〜6ヶ月後のBASDAI score (自他覚症状、臨床所見などを基にASの活動性を数値的に表現した指標) の明らかな改善が認められ、ASに対し非常に有効性の高い薬剤である との評価を得ました。その結果を基に(1)が欧州の一部とカナダで2002年 秋に承認され、(2)が2003年1月に米国で申請されました。これらの薬剤 にはさらに追加適応症と考えられている疾患が多数あり、さらに開発が 進められています。 このように、この療法は内外で従来の治療法に比べて飛躍的な有効性、 殊にADL改善に対しての効果が期待できるとの評価を受けていますが、 幾つか懸念されている事柄もあります。
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