強直性脊椎炎(AS)遺伝子解析
研究の途中経過報告
順天堂大学整形外科大学院 前田 公一
研究場所:理化学研究所・遺伝子多型研究センター・
変形性関節症関連遺伝子研究チーム
指導:池川志郎
強直性脊椎炎(AS)は古くから家族内発生を起こすことが知られており、
その発症には遺伝性要因が関与すると考えられていました。
このような遺伝性の関与が考えられる疾患に対して、
近年のヒトゲノム解析の進展に伴い、
遺伝子多型を用いたゲノムからのアプローチが現実に行われています。
遺伝子多型を利用した多因子遺伝病の原因遺伝子への
アプローチには2つあり、1つは知識に基づくアプローチ、
もう1つは位置に基づくアプローチです。
現在、この2つのアプローチを用いてASの疾患感受性遺伝子
(ASへのなり易さを持つ遺伝子)の同定を行っています。
- 候補遺伝子アプローチを用いて、ASの遺伝子解析を行いました。
具体的には、異所性骨化や靱帯骨化に関係すると報告されている遺伝子
を候補遺伝子とし、患者群と非患者群について候補遺伝子のSNP
(Single Nucleotide Polymorphism:一塩基多型)をマーカーに
遺伝子型を決定(タイピング)します。
両群間に有意差を認めたマーカーを含む遺伝子内で、
さらに有意に相関のあるSNPを探します。
それが同定できれば、次に、疾患感受性多型としてASに
どのような影響を及ぼすのか機能解析を行います。
異所性骨化や靱帯骨化に関係すると報告されている20遺伝子について
解析を行い、靱帯骨化に関係すると報告のある1つの遺伝子を
同定し解析を行っています。
しかしASにどのような影響を及ぼすのかは現在のところ
わかっていません。
- 位置に基づくアプローチ(ゲノムワイドアプローチ)では
「ゲノム上の位置」情報をもとに5万SNPをマーカーにして、
患者群と非患者群について遺伝子型を決定(タイピング)します。
両群間に有意差を認めたマーカーの周辺で、
さらに有意に相関のあるSNPを探し、そのSNPが存在する遺伝子が
ASにどのような影響を及ぼすのか機能解析を行います。
現在のところ1次スクリーニング(タイピング)を終了して
2次スクリーニングを行っています。
このような研究では、患者様のゲノム(血液から採取)の数に
依存するところがあります。ASは患者様の数も少なくゲノムを集めるのは、
他の疾患に比べてかなり難しいと考えられています。
順天堂大AS診の井上久医師をはじめとして、
滋賀医大、東京女子医大にご協力いただき収集を
行っていますが、まだまだゲノムの数が足りない状態です。
多数の患者様のご協力をお願い出来れば幸いです。
宜しくお願い致します。
用語説明
- ヒトゲノム
ゲノムとは、生命の設計図に相当するものです。
私たちは父親と母親からそれぞれ染色体を1セット23本ずつ受け継ぎ、
これがヒトゲノムの1セット分に相当します。
- DNA
遺伝情報を担っている物質。4種類の塩基からなり、
A(アデニン)とT(チミン)、G(グアニン)とC(シトシン)が
対になって結び付き、二重らせん構造を作っています。
遺伝子情報はこの塩基の並び方によって示されています。
ヒトゲノムは約30億の塩基対から成ります。
- 遺伝子
ゲノムの一部に相当する、どんなタンパク質をいつ、どこで、
どれだけ作るかを決めるプログラムの単位。
ヒトの遺伝子は約3万数千種類と推定されています。
- 遺伝子型
ある生物個体の形質を決定する遺伝子の組成。
- 遺伝子多型
遺伝子情報はDNAの塩基配列によって書かれています。
遺伝子情報はすべての人が同じではなく、
個人ごとに違っている部分があります。
個人ごとの塩基配列の違いを「遺伝子多型(いでんしたけい)」
と呼びます。
多型にはいろいろな種類がありますが、
1塩基の違いをSNP(スニップ:Single Nucleotide
Polymorphism、一塩基多型)といいます。
疾患と遺伝子との関係が、急速に明らかになりつつあります。
従来から知られている1つの遺伝子の異常で起きる遺伝病
だけでなく、生活習慣病ともいわれている“ありふれた病気”にも、
遺伝的要因がかかわっていることが分かってきました。
糖尿病や高血圧などの生活習慣病の遺伝的要因には、
遺伝子の“異常”ではなく“個人差程度の違い”であるSNPが、
いくつも複雑に関連していると考えられています。
- SNP
個人間における1塩基の違い。
500〜1,000塩基に1個のSNPがあり、ヒトゲノム全体で
300万〜500万ヶ所、遺伝子領域では50万ヶ所のSNPが
あると考えられています。
遺伝子領域にあるSNPは、作られるタンパク質の時期や量、
機能に違いを生み出すことがあります。
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