強直性脊椎炎における社会福祉行政のシステムや介護保険の実態

〜難病指定、身体障害者制度、介護保険などの利用方法について〜


関東支部長 T.N.


 今回は総会でお話ししたことを中心に、一部訂正、補足事項を加えて 述べさせていただきます。

 強直性脊椎炎の患者さんが、国や地方自治体から受けられる社会保障 制度は、大きく分けて、医療保険としての特定疾患医療費助成、社会福祉 としての身体障害者福祉法に基づく各種サービス、医療費免除または助成、 介護保険制度などがあります。その他に、所得の保障として障害年金制度、 生活保護制度などがありますので利用できる場合があります。


 その1「医療費助成制度」

● 難病医療費助成制度(強直性脊椎炎という病名に対して助成される制度)

 国は、「原因不明、治療方法未確立であり、かつ後遺症を残すおそれが 少なくない疾病」として調査研究を進めている 118疾患 (注1)のうち診断基準が一応確立し、 かつ難治度、重傷度が高く患者数が比較的少ないため、公費負担の方法を とらないと原因の究明や治療方法の開発等に困難をきたすおそれのある疾病 46疾患 (注2)に対して医療費助成をしています。


 なお、地方自治体によっては、さらに疾病を指定して、医療費を助成 している場合があります。現段階において強直性脊椎炎は、東京都に おいてのみ難病医療費等助成を受けることができます。同時に特定疾患 手当が受給可能です。( 申請方法は文末に付記)

 問題点:東京都以外の地域では、助成制度はありません。
 助成内容(東京都のみ):一部自己負担

 対象疾病のうち、スモン、劇症肝炎、重症性膵炎、クロイツフェルト・ ヤコブ病、先天性血液凝固因子欠乏症等にかかっている方、及び重症認定 された方以外は、以下の自己負担があります。

(1) 入院
 1医療機関又は1介護療養型医療施設につき、1ヶ月につき14,000円 (食事療養費に係る標準負担額を含む)を限度とします。

(2) 入院以外
 1医療機関又は1指定在宅支援サービス業者につき、1日につき 1,000円を限度とし、同一の月における1医療機関又は1指定在宅支援 サービス業者への支払は、月2回を限度とします。
  • 1,000円には、薬剤負担額を含む。
  • 3回目以降は患者一部負担なし。→ 全額公費負担
  • 訪問看護・調剤薬局(院外処方)は自己負担なし
  • 医療機関での歯科と歯科以外の診療については、それぞれの診療 ごとに、別の医療機関とみなされる。

(注1)特定疾患対策研究事業(国が定めた118疾患)
 症例数が少なく、原因不明で治療方法も未確立であり、かつ、 生活面での長期にわたる支障がある特定の疾患について、それぞれ 研究班を設置し、原因の究明、治療方法の確立に向けた研究を行う もので、現在 118疾患 を対象にこの事業が行われています。
 (このうち、診断基準が一応確立し、かつ難治度、重傷度が高く 患者数が比較的少ないため、公費負担の形を取らないと原因の究明、 治療方法の開発等に困難をきたすおそれのある疾患を対象としており、 平成13年5月現在対象となっている疾病は 46疾患 あり特定疾患対策懇談会の意見をもとに決定されています)


(注2)特定疾患治療研究事業(上記118疾患のうちの46疾患)
 難病患者及び家族の療養生活にかかる経済的負担の軽減を図るため に行われている事業である。稀少で、原因不明、治療方法未確立であり、 かつ、生活面への長期にわたる支障がある疾病として調査研究を進めて いる疾患で特定疾患対策研究事業として対象となる 118疾患 (注1)のうち診断基準が一応確立し、 かつ難治度・重傷度が高く、患者数が比較的少ないために公費負担の形を 取らないと原因の究明、治療方法の開発等に困難をきたすおそれのある 疾患を対象としており、平成13年5月現在対象となっている疾病は46疾患 あり、疾患対策懇談会の意見をもとに決定されています。

● 障害者医療助成制度(病名に関係なく身体障害者手帳 の等級による)

 この制度は、重度の障害をもつ人を対象にした制度です。健康保険 を使って医療機関で受診した時の医療費の患者の自己負担額を公費で 助成します。なお、入院時の食事提供に係る標準負担額は助成されま せんが、乳幼児医療に該当する人は助成されます。

 地方自治体によって適応が異なります。例えば東京都の場合は 身体障害者手帳1級及び2級が対象で、現制度では医療費の約1割が 患者の自己負担になっています。地域によっては身体障害者手帳1から 3級を対象に医療費を助成するという地域(愛知県、岐阜県など)も あります。

 なお、助成の内容は一部負担から給付(患者自己負担なし)まで その形態は都道府県ごとにさまざまで、障害者医療助成の制度自体が まったくない地域もあります。

  • ○障(マル障)の自己負担額
    平成12年9月から、老人保健法に準じた一部負担を導入。
    平成13年1月現在の自己負担額は以下の通り
     外来:
    定率制 1割  月額上限 3,000円(院外処方 1,500円) 又は月額上限 5,000円(院外処方 2,500円)
    定額制 800円限度(月4回まで)(薬剤一部負担金は助成)
     入院:
    定率 1割  月額上限 37,200円
    入院時食事標準負担額
     保健薬局:
    定率制 1割  月額上限 1,500円又は 2,500円
    定額制 なし(薬剤一部負担金は助成)
    ただし、住民税非課税者は入院時食事療養費標準負担のみ自己負担

※ 「身体障害者手帳」とは、身体障害者福祉法に定められたもので、 一定の障害を有する方に対して、申請により交付されるものです。 この手帳は、身体障害者であることを証明するもので、法律で定め られた援助や各種サービスを利用する場合に必要になります。上記 で示した医療助成制度をはじめとして、手当やJR、バス等の公共 料金の割引、税金の控除などが受けられる場合があります(地域に よって受けられるサービスは多少異なる)。
 強直制脊椎炎の場合は、肢体不自由の等級で7級から1級に該当 すれば、手帳の交付が受けられます。対象になるかどうかは、 それぞれの障害、程度により異なりますので、詳しくは市町村窓口 に相談してください( 申請方法が文末にあります)。


 その2「介護保険及び在宅支援サービス」

● 健康保険と 介護保険

 介護保険制度は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等 により要介護状態又は要支援状態にある者(以下、「要介護者等」)に 対し必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行います。 この制度に伴いまして、要介護者等は、介護保険の各サービスを受ける ととも、健康保険からも医療サービスを受けることから、介護保険と 健康保険とに重複しているサービスについては、介護保険のサービスが 優先することとなります。

難病患者についても、介護保険の被保険者である65歳以上の者(40歳 以上65歳未満であって特定疾病(注3)に該当 する者を含む)は、介護保険からサービスの提供を受けることとなります。 ただし、厚生大臣の定める疾病等(注4)に係る 訪問看護については、健康保険から行われます。

 強直性脊椎炎の場合は(注3) (注4)のどちらにも該当しないので、40歳以上65歳未満である場合には 全国的にみると介護保険、訪問介護において公的なサービスを受けられません。

※ 「健康保険」とは、この場合社会保険、国民健康保険、船員保険、 共済組合保険などの意味です。


(注3)40歳以上65歳未満であって、介護保険の対象となる特定疾患
  1. 初期の痴呆(うちクロイツフェルト・ヤコブ病)
  2. 脳血管疾患
  3. 筋萎縮性側索硬化症
  4. パキーンソン病
  5. 脊髄小脳変性症
  6. シャイ・ドレーガー症候群
  7. 糖尿病性腎症・糖尿病性網膜症・糖尿病性神経障害
  8. 閉塞性動脈硬化症
  9. 慢性閉塞性肺疾患(うち びまん性汎細気管支炎:都単)
  10. 両側の膝関節又は股関節の著しい変形を伴う変形性関節症
  11. 慢性関節リウマチ(悪性関節リウマチを含む)
  12. 後縦靱帯骨化症
  13. 脊柱管狭窄症(うち広範脊柱管狭窄症)
  14. 骨折を伴う骨粗鬆症
  15. 早老症
※訂正:総会での発表の際、質問があった11.慢性関節リウマチ (うち悪性関節リウマチ)は、悪性関節リウマチを含むという意味で、 11.慢性関節リウマチ(悪性関節リウマチを含む)と訂正しました。


(注4)医療保険での訪問看護をうけるとされている、厚生大臣の 定める疾病等
  1. 末期の悪性腫瘍
  2. 多発性硬化症
  3. 重症筋無力症
  4. スモン
  5. 筋萎縮性側索硬化症
  6. 脊髄小脳変性症
  7. ハンチントン舞踏病
  8. 進行性筋ジストロフィー:都単
  9. パーキンソン病(ヤールの臨床的重症度分類のステージ3以上かつ 生活機能症度がII度またはIII度の者に限る。)
  10. シャイ・ドレーガー症候群
  11. クロイツフェルト・ヤコブ病
  12. 亜急性硬化性全脳炎
  13. 後天性免疫不全症候群
  14. 頸髄損傷の患者
  15. 人工呼吸器をそうちゃくしている患者


● 強直性脊椎炎患者が受けられる在宅支援などの公的サービスについて
  1. 「難病における在宅支援サービス」(東京都のみ)  難病患者療養支援、在宅難病者訪問診療など在宅サービスが受けられ、 介護保険が適応される場合は介護保険を優先してサービスの提供を受けます (注5)


(注5)介護保険のサービスのうち、難病医療費助成の対象となるサービス
  1. 在宅サービス 訪問看護、訪問リハビリ、居宅療養管理指導料
  2. 施設サービス
     介護療養型医療施設(療養型病床群、老人痴呆疾患療養病棟、 介護力強化病院(平成14年度末まで))に入院して行われる、 介護の必要性に対応する医療サービス(食事費用を含む)
     なお、通所リハビリ及び短期入所療養介護(デイケア・デイサービス) は対象とならない。


  1. 「身体障害者在宅サービス」(身体障害者手帳の交付を受けた者を対象)
     ホームヘルプサービス(家事などの日常生活を営むのに必要な便宜を提供 するもの)、デイサービス、短期入所、日常生活用具給付等が受けられる 場合がありますが、地方自治体の制度によって異なります。


※介護保険制度と障害者施策の関係
(1) 重複する在宅サービスについて
 65歳以上(40歳以上65歳未満の特定疾病患者を含む。)の障害者が 要介護又は介護支援状態となった場合には、要介護等の認定を受け、 介護保険からの給付サービスを受けることができます。国の通知では、 その際、障害者施策と介護保険とで共通するサービスについては、 介護保険の給付サービスを受けることとなるので、原則として、 障害者施策からはそれらのサービスを提供することを要しないと されています。

(2) 障害者施策独自の在宅サービスについて
 障害者施策で実施されている在宅サービスのうち、介護保険には ないサービスについては引き続き障害者施策から提供され、これらの サービスを利用する場合には、介護保険制度における支給限度額の 対象となりません。


 その3「所得保障」

● 障害年金制度
 傷病のため就労や家庭生活が医学的に困難、あるいは制限される 場合に、所得保障として金銭的な援助を受けることができます。 障害者手帳と同様に、診断の確定と医学的条件が必要となります。 障害者福祉法とは定める法律が異なり、障害者手帳の交付とは 基準が異なります。
 また、年金への加入期間、初診時までに保険料を納付していた期間 などが関係してきます。詳しくは市区町村の年金課にお問い合わせ 下さい。

 国民健康保険の加入者を対象にしたものが障害基礎年金で、 その他に加入の種類によって、障害厚生年金(サラリーマン、船員 など)、障害共済年金(公務員、学校職員など)などがあり、支給 額は等級や加入年金の種類によって異なります。

 障害厚生年金、障害共済年金は、3、2、1級、障害基礎年金は 2、1級が支給の対象となります( 申請方法は文末に付記)。


● 生活保護
 生活保護は「国で定める最低生活費を下回る場合に、足りない部分 について保障する」制度です。仕事の給与、年金、各種福祉手当、 仕送りなどを合計して、なお最低生活費に満たない場合に、その 足りない部分がお金(保護費)として支給されます。

  • 病気や怪我などで働けなくなって生活のために必要な収入がなく なってしまったとき。
  • 生活費は何とかなっても、病気や怪我の治療費が支払えないとき。
  • 治療費が払えないので医者にかかるのをためらっているとき。
  • 年をとって働けなくなって生活に困っているとき。
 などに受けられる社会保障制度です。

 但し、預貯金、生命保険加入がみとめられないなどのかなり厳しい 制約がありますが、上記に該当する場合には、お住まいの地域の 民生委員・市町村役場・福祉事務所などに相談して下さい。


おわりに

 このように、強直性脊椎炎は現在、全国的にみると国が定めている 医療費の助成が受けられる特定疾患(46疾患)に認定されていません。 また、その候補と考えられる118疾患にもノミネートされていない ことは、強直性脊椎炎がどのような病気であるかが国や地方自治体に あまり理解されていないことに関係していると思います。


 今回、私の調査によりますと病気の症状がある程度重くなった場合には、 身体障害者福祉法に基づく社会福祉制度が適用される(身体障害者手帳の 取得などにより)可能性が大きいというような解釈がされ、国や地方行政 において特定疾患の認定が遅れている要因の一つになっているようです。

 確かに医療費助成などは、必ずしも特定疾患の制度でなくても障害者 医療助成制度がかなり地域に認められていますし、また、身体障害者手帳 の取得によって、医療費助成制度が受けられない場合においても等級に よって様々な公的なサービスが受けられます(内容は地域によって異なる)。


 当面は特定疾患に認められる可能性(全国的には)はないので、身体 障害者手帳やそれに付随する付随する社会保障制度を利用することは、 強直性脊椎炎の患者にとって重要なことといえそうです。


 一方で、まず特定疾患対策研究事業( 118疾患 )にノミネートされることは、将来特定疾患公費負担の対象疾患( 46疾患 に入る)への道筋には不可欠なことでありますし、また、地域によっては 118疾患に入ることによって難病患者在宅支援サービスを受けられる場合 もあり、この面でも大変意義のあることであると考えます。


 今後も日本AS友の会として厚生労働省への陳情活動などを続けて いく必要性があると考えます。


 以上、これまで述べてきた公的サービスの内容、申請方法については、 医師や医療スタッフに相談してわからない場合は(大きな病院では医療 ソーシャルワーカーに相談するのも一計)、直接、保健所や地方自治体 に積極的に問い合わせることをお勧めします。

 このような制度は地域によってかなり違いがあり、また、受けられる サービスが異なりますので、今回の調査ではまだまだ不十分であったと 思います。今後は皆様からのご相談をお受けすることはもちろんですが、 それと同時に様々な情報をお寄せ下さい。皆様と共にこの問題について 考えながらより充実した情報をお届けしていくつもりでおります。


 最後に各種申請方法を付記いたしますのでご参考になさって下さい。


〔付録:各種申請方法〕