脊椎炎に対するサプリメントの使用
医療部長 井上 久
Q. 脊椎炎の患者さんに常用を薦めるビタミンは何でしょう?
総合ビタミン剤の摂取が、
糖尿病の患者さんに有効であることが分かっています。
糖尿病の患者さんのうち、
総合ビタミン剤を飲んでいる人の方が飲んでいない患者さんより、
感染症にかかる率が低いのです。
総合ビタミン錠を余分に摂取しても、
脊椎炎などすべての慢性疾患の患者さんにとって、
何らかの有効性があるということは証明されていません。
通常摂取量以上のビタミン剤やミネラルは、
ビタミンD不足症、骨粗鬆症、腸の炎症性疾患などにおいて、
それぞれ患者さんの病状に応じて処方されるべきものです。
Q. 脊椎炎の患者さんは、
何故十分なビタミンDの摂取する事が大切なのでしょうか?
どれくらいの量のビタミンDを摂取すれば十分なのでしょうか?
成人には1日に400 IU(国際単位)のビタミンDの摂取が薦められています。
しかし、脊椎炎の成人患者さんの50%もの方々が、
ビタミンD不足であるという調査結果が出ているため、
この摂取量は見直されるべきです。
成人骨粗鬆症の人は、毎日800 IUのビタミンDの摂取が薦められていますが、
最近のビタミンの評価分析では、骨粗鬆症の患者さんは、より多くの、
即ち3000 IUの摂取が必要ということが明らかになっています。
ASの患者さんは、脊椎骨の靭帯付着部に骨新生が起こるため、
脊椎での骨密度検査では実際より多めの数値が出てしまうので、
大腿骨や前腕骨における骨密度検査が必要です。
ASの半数以上の患者さんが、骨密度検査では骨粗鬆症と診断されます。
ビタミンDは尿や大便では排出されないため、
余分に摂取すると体内に蓄積して、骨代謝に悪影響を及ぼしたり、
血中カルシウム濃度をあげてしまう可能性があります。
血中のビタミンDの正常値の上限の濃度を超えないよう
適切な量を摂取することが大切です。
Q. サプリメントや薬草(漢方薬)で、
脊椎炎の患者さんの症状の改善に役立つものがあるでしょうか?
サプリメントは痛風、変形性関節症、
あるいは関節リウマチなどの炎症性関節炎に効果があると言われてきました。
しかし残念ながら、この補足的な療法が体系的に研究され、
ASへの有効性が証明されたという評価・報告は殆んどありません。
ヨーロッパのAS患者の間では温泉療法が人気があり、
ASの痛みや硬直をいくらか和らげてくれる効果があるようです。
また、オメガ3脂肪酸など、
様々な炎症性関節炎に効果があるという報告のある物質は、
ASにも有効と考えられます。
炎症性関節炎において効果があるとされているその他の物質には、
ブロメリン、ボスウェリア、ウコン、ヤローの根、
ホワイトウイローの樹皮などがあります。
これらの薬草の多くはサリチル塩酸を含んでいますので、
ASの患者さんや、大腸炎の方の場合、腹痛を惹起する可能性があります。
これらのサプリメントが肝臓や血球(白血球、赤血球、血小板)
などに悪影響のないよう、定期的な血液検査が必要です。
〈参考〉
*ブロメリン:パイナップルの果汁から得られるタンパク質分解酵素
*ボスウェリア:(Boswellia Roxb. ex Colebr)属 カンラン科(BURSERACEAE)
中近東、インドなどに産する樹木の名前。
ボスウェリア属の樹木から採取される樹脂や精油は
強い消炎鎮痛作用と抗菌作用を持つことが知られています。
ボスウェリアの樹脂、精油は胃腸障害を減らすよう開発された
いわゆるCOX2阻害剤(セレスコックスなどの非ステロイド系抗炎症剤)
のような消炎鎮痛作用を持つといわれる貴重なものです。
*ヤロー:和名はセイヨウノコギリソウで、葉が細長く、
裂状鋸歯(細かい切れ込みがある状態)になっている様が鋸の歯を連想させます。
学名は、アキレス(アキレスの)ミルレフォリウム(細かく切れた葉)と言います。
ギリシャの英雄アキレスがトロイ戦争で、パリスの毒矢で重傷を負い、
女神アフロディーテがヤローを薬草として勧めたというエピソードからの命名です。
ヤローは丈夫な多年草で、繁殖力が強いため、
原産地のヨーロッパでは野生化している雑草みたいなものです。
日本でも、道端に野生化したヤローを見かけます。
ヤローの茎葉を刈り取って陰干ししたものを煎じれば、
切り傷の止血効果があります。胃健と滋養強壮の効果があります。
*ホワイトウイロー:(西洋シロヤナギ)・旧名白柳の皮。
ガンマリノレン酸(γリノレン酸)やEPAと組み合わせることで
アレルギーの炎症抑制に効果を発揮するハーブ。
もともとはアスピリン(鎮痛剤)としての機能で
アトピー性皮膚炎や掌蹠膿疱症の皮膚のかゆみや痛みを
取り除く目的で使用されていたのですが、
ステロイド剤の様に炎症を起こすホルモンが作られなくする働きが
炎症を抑制するとして、
アレルギーサプリメントとして人気が高くなりました。
Q. ASの患者さんにとって何故カルシウムは大切なミネラルなのでしょうか?
脊椎炎の患者さんの半数以上に骨粗鬆症がみられ、
放置しておくと軽い衝撃でも折れてしまうような脆い骨になっています。
骨粗鬆症になり易い人はカルシウムの摂取を心がけ、
プラスのバランスを維持することが大切です。
毎日、
適量のビタミンDと1日に1,000 mg〜1,500 mgのカルシウムサプリメントの摂取が、
骨密度の低下を毎年1〜2%の割合で防ぐことや
それを改善することが明らかにされています。
カルシウムの摂取がASにおける靭帯骨化、強直を促進するという証拠はありません。
Q. ASの患者さんにとって抗酸化物であるアルファリボ酸は有用でしょうか?
アルファリボ酸体内のフリーラジカルを取り除く助けになる抗酸化作用があるため、
老化を抑える物質として期待されています。
ただし、実際に人体においてそのような作用があることは証明されておらず、
またASについてもその効果を裏づける研究もなされていません。
〈参考〉
*アルファリボ酸:非常に強力な抗酸化作用を持つ物質で、
究極の抗酸化ビタミンともよばれており、
特に肌に対してその効果が期待できます。
ビオチン(Biotin)は水溶性のビタミンBで、
タンパク質、脂肪、炭水化物を消化する際の酵素として働き、
アルファリボ酸の吸収を助ける効果があり、
これらを組み合わせることによって、
更に効果が上がると考えられています。
*フリーラジカル:遊離基ともいい、
不対電子をもつ原子または分子のことです。
極めて化学的活性に富み、
速やかにフリーラジカル同士あるいは安定分子との反応によって変化します。
放射線が細胞中の水分子に作用するとOH・ラジカルや
H・ラジカルなどの反応性に富むフリーラジカルが生じ、
遺伝子のDNAを攻撃して障害を与えます。
生体内では細胞膜の酸化、脂質の酸化などにより、
血管透過性亢進や、組織の浮腫などを生じ、
被爆後の超早期の反応の原因となります。
Q. ナス科の植物(ポテト、ナス、トマト、赤、緑のトウガラシなど)
に含まれるナトリウム植物塩基(Sodium Alkaloid)が関節炎や
ASを引き起こしたり、その一因となるという説がありますが、本当ですか?
ナス科に属する植物が
人体の関節炎の痛みの一因になるという確固たる証拠も根拠もありません。
しかし、裏づけの乏しいものですが、
痛みが悪化する可能性があると経験的に言う人もおり、
これらの植物の抽出物に極端にさらされた動物の関節や組織に、
石灰化が発生したという動物実験はあります。
炎症性関節炎の患者さんは、
各々の経験をもとに(摂取すると症状が良くなるか、悪くなるか、
変わらないか)しつつ、これらの野菜の摂取を心がけるようにして下さい。
Q. プロバイオティクスは多様な健康状態の治療に、
最近とても人気が出てきているようです。
脊椎炎の治療にプロバイオティクスはお薦めですか?
乳酸菌ミルクやビフィズス菌などのプロバイオティクスは、
抗生物質を授与した際に起る(副作用としての)下痢や
重複感染の予防効果が見られ、
消化器系の疾患のある人にも使われます。
バイオティクスの摂り過ぎは腹部の不快感や下痢を起こしかねません。
500億から1000億で形成される少量の細菌の塊、
腸内細菌叢の構成バランスを整え、保持して、
消化器障害の予防に役立ちます。
様々な消化器系障害の治療として、最近人気が出てきているようです。
〈参考〉
*プロバイオティクス:
腸内有益菌(腸内細菌叢を改善することで健康に寄与する微生物)
Q. グルコサミンやコンドロイチンのサプリメントは脊椎炎に有益ですか?
グルコサミンやコンドロイチンは、
変形性関節症などのような退行性の関節炎の患者さんに使われています。
グルコサミンはカニやエビなど甲殻類の動物の殻から、
そしてコンドロイチンはウシ属の動物やサメの軟骨などから得られます。
これらのサプリメントは変形性関節の痛みに対してある程度の効果を発揮します。
このことを、製薬会社は強く主張しますが、
実際は炎症を抑えませんし関節軟骨を復元することもありません。
これらのサプリメントは、AS患者さんの炎症による痛みの緩和には、
期待はずれになることが多いようです。
Q. ASの患者さんの中には、
体重が減ったり食欲がなくなったりする方がいます。
この症状に対して、
ビタミンやサプリメントその他の栄養補給食品
(プロティンシェークとか)
などで推薦するものが何かあるでしょうか?
AS患者さんの体重減少には、いくつかの原因が考えられます。
たとえば前屈みで背骨が曲がって強直しているので、
お腹が圧迫されてしまうこと、
大腸炎の併発により小腸での栄養吸収が不足することなどです。
続発する抑うつ状態や、
あるいはまた服用している非ステロイド系抗炎症薬の副作用としての胃腸障害なども、
体重が減る原因になります。
体重減少に対する治療としては、まずは原因をつきとめることで、
曲った背骨の矯正手術や効果的な腸炎の治療などが挙げられます。
少しずつ何度かにわけて食事を摂るとか、
蛋白質に富んだ補給食も体重を増やす助けになるでしょう。
毎日の総合ビタミンの摂取は、感染予防に役立ちます。
Q. 特定の脊椎炎治療薬と一緒に摂ると
有害な相互作用を起こすビタミンやサプリメントがあるでしょうか?
薬同士、あるいはサプリメントと薬とが相互作用を起こすものは無数にあります。
ウイローの樹皮のような抗炎症作用を持つ生薬は、
サリチル塩酸を含んでいますので、
非ステロイド系抗炎症薬による胃腸刺激作用を増幅する可能性があります。
ニンニクのような栄養補助食品は、
抗凝固作用を持つアスピリンやクマジンのよう薬の効果をより高めます。
西洋オトギリソウは、従来の抗うつ薬と併用することが禁止されています。
〈参考〉
*西洋オトギリソウ(St.John's Wort):
軽度の抗うつ作用があると信じられているハーブ
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