アメリカの会報から

東洋と西洋の医学がドクターのオフィスで出会う

ハーツ博士:カリフォルニア大学(UCLA)臨床学部、統合医薬センター


 9月に行われたSAA(Spondylitis Association of America)の 「ストップ・ザ・ペイン・シンポジウム」で、マイケル・ハート博士は 参加者の前で、薬は、西洋科学の要素と、東洋的伝統と栄養学的な考え方 の両方を取り入れた時、健康へ導く最良のチャンスを作り出すと述べた。

 彼は、「私は西洋医薬の処方箋を信じていますし、一日中処方箋を 書いています。しかし、西洋の医薬は良い価値のあるものと思う一方、 東洋の哲学、すなわち栄養摂取、ハーブ(漢方薬・生薬)の医学、 栄養補助剤などの中にも、癒しの重要な鍵を持つものがある事を 認めています」と話した。

 博士は、「あなた方の中で、何かの栄養補助剤(サプリメント)や ハーブ(漢方薬・生薬)を常用している人はどのくらいいますか?」 と参加者にたずねた。注目すべきことに、大多数の人が手を上げた。 博士は「思った通りですね。これは、西洋医学の権威の扉を吹き飛ばす 現象です。より多くの人々が最初に治療を受けた西洋医学医よりも 代替治療(訳者注:漢方、鍼灸、カイロその他、西洋医学以外の治療法) を行う治療院に行った……という90年代にハーバード医科大学院で 最も良く引用された記事の内容を裏付けるものです」と続けた。

 何故なのであろうか?。ハーツ博士は、「それは、人を治療する事と、 病気を癒すということは異なるからです。さらに、用語上、治療とは 生物学的な病気の要因を取り除くことですが、残念ながら、現在、 この国ばかりでなく世界中の人々を苦しめているASや慢性病に対する 病気の要因を取り除く治療、すなわち根治療法はありません」と答えた。


〔以下、博士の話の概要〕

 癒すとは、再生させること、回復させること、肉体的・感情的・ 精神的な健康を導くものである。そして、全ての人が治療により治癒に 導かれることはない一方、今日のように、誰でもが癒しを得ることは できる。また、癒しのプロセスの一つは栄養補給を通して行われ、 それは炎症を和らげる効果があるので、食事がとても重要なものとなる。

 また、ASやその類似の病気における炎症のプロセスは、免疫細胞に 問題が生じた結果そこからなんらかのシグナルが発せられ、それに 反応して身体がその細胞を攻撃し問題を解決しようとしている経過と 言える。細胞を見ると、それはサッカーボールの様な球体で、ボールの 外側の膜はほとんどが脂質である。身体は、炎症の仲介物(起炎物質) であるプロスタグランジンのような物質を造るために脂質を破壊する。 それが他の細胞に入り込むシグナルを送り、攻撃に参加する。ある種類の 脂質はより簡単に炎症を知らせるシグナルに変わるので、あなたがたの 食事は大変重要になると言うことが出来る。
 「良い脂質」は、Ω−3の脂質(不飽和脂肪)であり、それらは魚油、 オリーブ油、キャノーラ、オリーブ油と混合した大豆油、それから、 身体の中でΩ−3脂質に変わる大麻や亜麻油がある。「悪い脂質」は Ω−6脂質で、コーン油、紅花油と大豆紅花油があり、「悪い脂質」は 容易に炎症を誘発する。その例として、最近、安い脂質を得るために、 コーンと紅花を混合して、これに悪臭を取り除く操作を加えて作った ものがある。それらの脂質は安いので、家庭の食料品の棚に並んでいる あらゆる加工品や焼いた調理品に使われている。

 Ω−3脂質は健康的な脂質で、研究によれば、多くのメカニズムが ASに似ているリウマチ性関節炎を導く炎症を和らげる作用があることが 示されている。

 良い栄養の摂り方は、環境破壊によって身体に害を与える物質に対して、 人間が抵抗する最良の機会を与えてくれる。

 栄養補助剤のような形で「良い脂質」を摂っている人は、体の硬直が 少なく、発赤などの炎症徴候の減少、そして時に抗炎症薬などの西洋医薬の 必要量を減らすことができる。 一方、関節炎やASに悪影響を与える 食物があり、ある特定の食物は、病気を悪化させる。それらは、トマト、 ポテト、ナス、コーン、小麦、砂糖、魚、乳製品、チョコレートなど、 ほとんどの食品にも含まれていると言う事ができる。
 また、ある人に良いものが、あなたに良いとは限らない。食事を 減らして異なった食品の影響を試し、あなたの食事からある種の食物を 取り除いた方が、体にとって有益かどうかを調べることをお勧めする。 栄養のとり方は重要なのだろうか?。確かに、そう言える。あなたが 栄養学的に必要な要素を含む食事を摂ったとき、このことにより、 身体は病気に抵抗力を持つようになり、また病気から回復させる。 環境破壊によって身体に害を与えるものを拒絶する最良の機会を得た と言える。

 また、カルシウム、ビタミンC、D、Eをたくさん摂取した時、 関節炎の激しい痛みが和らぐという研究結果が出ている。

 強い骨を造るのには十分なマグネシウムも重要で(これは、 アメリカ人の食事の76パーセントが不足しているのだが)、 これは豆類、マメ科の野菜、魚、貝類や栄養補助剤から 摂取できる。

 しかし、栄養補助剤ついては、どちらが効果があり、どちらが ないのか見分けることは容易なことではない。

 今日、栄養補助剤は広く市場に浸透し使われているが、80年代には 効果のないものや危険性があると禁止されていたものが1994年には 解禁され、莫大な利益をもたらす商品として市場に出まわっている。 政府は不必要なものを市場から排除する前に、まずそれらに危険性が あることを証明しなければならない。また、正しい栄養補助剤を 見つけることや、より正しい種類の栄養補助剤の情報を得るという ような品質管理はない。

 最終目標は最善の健康であるが、私たちが病気でなくとも、最善の 状態にいる訳ではない。いつも、非常に快適という訳ではない。そして、 このような最終目標に到達させることのできる西洋の薬などない。 あるとすれば、それは、あなたの身体自身の内にあるエネルギー源から 発するものであり、精神の力や癒すための内因性の能力である。

 このことを踏まえた上で、西洋医薬の最も効果的な使い方と、 東洋的な考え方、薬、栄養を、併用することにより、全ての人が、 最善の健康を得る機会を持つと考えている。


ハーツ博士によるビタミン&栄養補助剤(サプリメント)の評価表
アロエジュース:
 注目に値する植物で、安全で皮膚の治療に使用すると有益である。 服用すると危険なこともあり、激しい下痢や体液中の電解質バランスを 崩す原因になり得る。

抗酸化物:
 炎症を引き起こす原因になる酸化を鎮めるために良く使われている。 どのように有益であるか調べる研究が進められている。

バイオフラビノイド:
 身体が使用するビタミンCの効率を高める作用が期待される。 緑葉野菜に含まれる。

ビタミンC、ビタミンE:
 抗酸化物は単品ではなく一群でとると効果があると信じられている。 例えばブドウの種、松の樹皮、セレニウム、ビタミンCとEの 組み合わせたもの、ビタミンEとベータカロチンを組み合わせた もの。研究によれば、超大量の抗酸化物の服用は効果がなく、 実際にはむしろ有害となるとされている。

CMO(Cerasomal-cis-9 acetyl-myristoleate):
 牛の脂肪組織の中に発見された脂質の一種で大変高価である。 ハーツ博士は患者にこれを試したが、有用性は認められなかったと 言っている。

コリダリス(コマクサ科)、ジェネチィアン(リンドウ科)、 ペオニア(ボタン科)、スキュテラリア(シソ科):
 中国で数世紀の間使われているハーブ(生薬)で炎症を鎮める。

グルコサミンとコンドロイチン:
 普通は複合栄養補助剤として売られていて、軟骨組織を再生する ことによって炎症と痛みを緩和させる。安全で毒性の無いものは何でも 一飲する価値がある。
 ASに対する研究は無いが、リウマチ性関節炎における研究は 実施されている。副作用は少ない。貝から抽出しもの。

MSM(メチルスルフワニルメタン):
 市販されている薬としては強力な補助剤である。リウマチ性関節炎 で苦しんでいた俳優ジェームス・コバーンによって宣伝された。詳しい 研究は発表されていないが、ブラジル人の研究には効用が述べられている。 いくらかの効用と少しの毒性がある可能性がある。

SAMe(アデノシルメチオン):
 ヨーロッパで20年間使われている。うつ病やその他の病状に使用する 為の研究がなされている。タンパク合成障害剤。ハーツ博士が、患者に SAMeを服用させたが、関節炎の痛みの減退はみられなかった。

刺イラクサ:
 毒性はない。最近の英国の研究では、服用していたボルタレンの 4分の1を刺イラクサから作ったお茶に代えた場合、鎮痛効果に変わりは なかったという結果が出ている。


ハーツ博士とシンポジウム参加者の質疑応答

問:
 肝臓を保護するハーブ(漢方薬、生薬)はありますか。
答:
 肝臓を保護するために使用されている主なハーブはオオアザミ、 マリアアザミ(地中海沿岸産のキク科の草、葉は光沢があり刺が多い。 花は赤紫色、直径7〜8cmの大型頭状花)があります。オオアザミは グルタチオン(動植物の細胞中に存在し、生体組織の呼吸や酸素の活動に きわめて重要な役目をする)という物質を増加させます。これはタイ レノールのような酸化物に抵抗して肝臓保護の最前戦の役目を果たす ものです。

問:
 博士は痛みを和らげる食物について書いた本を何か知っていますか。
答:
 バーナード博士のクリニックの経験に基づいた「痛みを和らげる 食物(Foods that Fight Pain) 」は、良い本だと思います。この本は、 炎症に対する考え方を論じていますが、私と考え方が同じで、食べ物を 減らすことの潜在的な価値についても述べています。

問:
 ノニジュース(Noni juice)は有益な効果がありますか。
答:
 ノニジュースはやや塩辛く、皿を洗った後の汚れた水のような味 のするジュースで癒しとは別の属性をもつものと考えられています。 私はノニジュースに長期的な効果について検討したことはありませんが、 副作用は見られないように思います。

問:
 最良と言われるビタミンのブランドはありますか。
答:
 お答えするのは難しい質問です。規制廃止のために、規格を 定めたり品質の管理が行われていません。通常、患者が購入したい と思っていたものを購入したかどうかを確かめるためにラベルを確認 します。工業規格を作るための改訂が行われていますが、まだ完成に 至っていません。他の国々の方がずっと進んでいます。

問:
一緒にとってはいけないビタミンは何かありますか。
答:
相互作用の可能性があるものを検討して(調べて)いない ビタミン類は一緒にとるべきではありません。私はマルチビタミン のような概念に疑問をもっています。理由は、一錠中に全てを含有 している訳ですから、時に、過剰になります。身体は、十分に吸収 できません。結合した物を一緒に吸収する事に問題があります。

問:
 ビタミンは一日のうち、いつ頃摂るべきでしょうか。
答:
 ビタミンによって、より良く吸収される時間が違っています。 例えば、午前10時にカルシウムを摂ることによって、夜中う失われる 骨量の約30パーセントを減らすことができることがわかっています。 骨が失われる(血中に溶けだす)のは夜がほとんどです。理由は わかりません。クエン酸カルシウムのようなある種のカルシウムは、 胃が空の状態の夜により良く吸収されています。このような微妙な ところが、その栄養補助剤の総合的効果を左右してしまうことが あります。

問:
 規則的に摂るビタミンとしては、どんなものが薦められますか?
答:
 私は、学術研究に基づき、個人個人に合った摂取法ができるように 努力・研究しています。もし、あなたの家系に心臓病がある場合、 私は動脈に対してコレステロールよりも25倍の毒性があるホモシステイン と呼ばれている物質を減らすためにビタミンB類を摂るようにさせます。 アメリカ心臓医学協会は、ビタミンB類の摂取を増やすよう薦めています。 葉酸(ビタミンB複合体の一つ、肝臓、酵母、ホウレン草などに含まれ、 ある種の貧血症などに効果がある)は、妊娠の初期におこる神経障害を 保護します。
 カルシウムは前立腺癌の発生・発育を助長します。そのため、骨粗鬆症が ある場合、その治療に問題が生じます。このように、一人一人、必要な物質、 あるいは悪影響を及ぼす物質が異なるため、誰にでも良いビタミンを薦める ということは簡単に出来ることではないのです。

医療部長注:ASの患者さんから、これはASに良いか? 悪い?と、巷に氾濫する様々なものについて聞かれますが、AS患者なら 誰にでも良い、効く、是非お薦め……というものは、まずありません。 副作用に注意しながら使ってみて、良さそうなら続ける、不変か悪化か 新しい症状がでるようなら中止すれば良いでしょう。もし、良いよう だったら詳し報告して下さい……という回答になるのが常です。 私の感覚では、たまたまその患者さんにピタリ合った漢方薬以外は、 一過性に有効だったようにみえても、長続きはしていないように思います。 一方、大変危険な副作用が生じたものも、今のところは見聞きしていません〕


おわりに、ハーツ博士より:
 私たちがルーツに戻り、「穀物、丸ごとのフルーツ、少肉、少魚」 の食事をするなら、より健康になるでしょう。

 ハーブ(漢方薬・生薬)の栄養補助剤は多くの利益があります。しかし ながら、手術をする時には服用してはいけないという事を覚えておいて 下さい。麻酔の効果を強める可能性があります。薬用人参は血圧を 上げます。イチョウの葉は血液の凝固(止血)を妨げる可能性があります。

 米国麻酔科医協会は、手術予定前2〜3週間どんなハーブの栄養補助剤 もとることを止めるよう忠告しています。手術を予定している場合、 あなたの摂っているハーブについて、問題があるかどうかを知る為に医師に 話して下さい。もしも突然、緊急に手術をしなければならない場合は、 何を摂っているか医師に話すようにして下さい。

以上、翻訳は、賛助会員のM.H.様の ご協力をいただきました。


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